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解説-火鼠には悪い事をしたけどね

 机に置かれた、二匹のネズミーー片方は生きていて、もう片方は死んでいるーーを前に、フルメンは無言だった。チラリと私を咎めるような眼差しを向けてくる。

現在、私はフルメンに事の真相を報告しに来ていた。


「あの森には、サラマンダーはいない。火事を起こしていたのは、電気ネズミと火鼠だ」


「電気ネズミによる放電で、火災が生じたと?」


訝しげな表情を向けるフルメン。


「電気ネズミが出せる電圧は、獲物を痺れさせる程度のはず」


精々人の静電気と同じ程度の威力で、火が生じるとは思えない。暗にそう言ってくるフルメンに、私も同意する様に頷いた。


「そう、火鼠との縄張り争いで放電したとしても、通常なら発火までは至らない」


ただし、


「発火する条件が揃い過ぎていた場合は別だ」


まず思い出して貰いたいのが、何故サラマンダーの仕業と勘違いしたのか。

それは、突然火が生じた事とーー周囲の温度だ。

突然火が生じるように見えたのは、電気ネズミと火鼠の姿がハツカネズミの様に小さく、見えなかったから。

では、周囲の温度が高かった事は?


「先程言った様に、電気ネズミの放電程度では気温はそう簡単に上がる筈がない」


だが、風見が「湿度はないのか、唇が乾燥する」と言った様に、あの周囲はとても乾燥していた。そこで閃いたのが、


「フェーン現象って知っているか?」


湿った空気を含む風が、山頂へ上る際に雨などになって湿度が下がる。そして山を吹き降りる際に高温の乾いた風になり、局地的な空気の乾燥や気温の上昇をもたらす。これがフェーン現象だ。


「フェーン現象が起きると空気が乾燥し強風が吹く為、摩擦熱による火災の発生・延焼になる場合がある」


風見と反対側に下山する際、丁度雨が降った後だった。そして火元には電気ネズミと火鼠。

ここから導き出せる答えは


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追加で述べるなら、あの山は針葉樹が多く生えていた。針葉樹は油分を多く含み、燃えやすい。

多くの偶然、条件が重なっていたのだ。


フルメンは「だからと言って、連れてくるな」とネズミ達を見た。


「酷いな!証拠が必要だと思って、一生懸命連れてきたのにっ!」


「お前の場合、全て宣誓すれば問題ないだろ」


それこそ、写真を撮ってくるだけで充分だったのではないか?と非難の眼差しを向けてくる。

私は「思い付かなかった」と嘯いた。


「そもそも、そっちが無茶振りしてきたんだろ」


たとえ私が女神の眷属であろうと、精霊と戦えなど正気の沙汰ではない。これくらいの嫌がらせは甘んじて受け入れろ!

フルメンはこのやり取りが不毛だと思ったのか、話を変えた。


「そう言えば、ルカではなく風見を連れて行ったのだな」


「あぁ、万が一、サラマンダーの怒りを買って火に囲まれでもしたらと思ってね」


サラマンダーも馬鹿ではない。直接、私(女神の眷属)に手が出せなくとも間接的に殺す事は可能だ。逃げるだけならルカのフェアリーリングでもよかったのだが、どんな事があるか分からない。

それにもし辺りを火の海に変えられた場合、その後の鎮火作業を考えるなら、全能者である風見が適任である。


「火鼠には悪い事したけどね」


今までの小火では、発火後に電気ネズミは早々に逃げ、火鼠はとどまっていた。

何故なら火鼠は火に燃えない。だが、水に濡れると死んでしまう。

故に風見の降らした水で死んでしまい、火災現場には火鼠の死骸しかなかったのだ。ちなみに、今回の現場に電気ネズミがいたのは、おそらく発火後早々に鎮火された為だと思われる。


あの時、水による冷却消火ではなく、酸素供給を止めるーー二酸化炭素の空気を集めると言ったーー窒息消火を指示すれば良かった。

と、少し後悔した。

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