過去編-アッシーくん……
本日から本編開始
風見は膨れていた。ここ最近、ずっと機嫌が悪い。
その理由は明確だった。
「ルカ、次は火炎の国に行くぞ」
「フルメン中将の所か?最近多いな」
ナギがルカばかりに構うのだ。前までは自分があの隣にいたのに…。
「しかも!いつの間にかナギ、ルカの事を呼び捨てにしてるのよ!?」
はじめは「くん」付けしていた筈。一体いつから……。
向かい合わせで書類仕事をしていた日向は、風見の様子にやれやれと首を振り、溜息をついた。
「それは仕方ないぜ、風見。あいつには妖精の輪がある」
ルカの能力、フェアリーリングは空間移動能力である。
空間支配系能力はとても貴重だ。扱える者が少ないのもそうだが、なにより需要が多い。
「まぁ、見方によっては移動手段、アッシー君だと思ってやれよ」
それはそれで可哀想な…と風見は日向に複雑な表情を向ける。
別に、ルカの事が嫌いな訳でも、憎い訳でもない。ただ嫉妬しているのだ。その自覚はある。
日向は半ば呆れつつも、風見を慰める様に言った。
「お前の価値と、ルカの価値は違うーーあとで必ず、ナギはお前を頼るさ」
全能者たる風見が、たかだか一芸に秀でただけの存在に、その立場を揺るがされる筈がないのだから。
日向の言葉に、風見は渋々ながらも納得したようで、手元の仕事へと視線を戻したのだった。
日向の言葉はまるで予言だったかの様に、翌日、ナギが私に泣きついてきた。
「お願い、風見!!一緒に行ってくれっ!」
「一体、どうしたの!?」
ナギが「フルメンの奴、絶対に許さない」と、珍しくヨヨヨッと涙を流す。
「山火事が最近続いているから相談したいってフルメンに呼び出されて行ってみたら、あいつ、火の精霊をどうにかしろなんて事を言ってきた」
「サラマンダー!?」
ナギの言葉に、私も目を見開いた。
「精霊なんて、上位の存在じゃない!?それに手を出すなんて無謀よ!」
「だから私に言ってきたんだよ……」
火炎の国で調べた所、調査隊の目の前でいきなり地面から火の手が上がり、見る見るうちに燃え広がったと言う。また、山の中の温度が高かった為、サラマンダーの仕業ではないかと推測されたのだ。
「理と同等の存在である精霊に、下位の存在が手を出すなんて御法度。だから知恵の女神の眷属である私にお鉢が回ってきたんだ……」
ナギは項垂れる。私は可哀想にと思いつつ、久しぶりに頼ってもらえた事が嬉しかった。
と言う事で、私はナギと共に、火炎の国のとある山に来ていた。この山は最近、立て続けに火事が起きており、現在立ち入り禁止になっている。
「ルカは連れてこなかったの?」
「うんーーけど帰りの事を考えたら、連れてきても良かったかなぁ」
此処まで来るの大変だったし、帰りにルカに迎えに来てもらえる様にしておけばよかった。そう呟くナギに、私は日向の言葉を思い出す。
「アッシーくん……」
「なんか言った?」
いや、何も。急いで私は首を振る。ナギはニコッとわざとらしい笑みを浮かべると「暗くなる前に、さっさと済ませよう」と山の中へと入って行った。
私は一拍遅れて、急いでナギの後を追ったのだった。
秋の深まりつつあるのだが、紅葉よりも緑が多い。どうやら針葉樹が多いらしい。
報告通り、確かに山中の秋としては、暖かかった。
「けど湿度はないのか、唇が乾燥するわね」
そう言って、リップクリームを塗る。ナギは「こっちは風下か」と頂上の方を見上げていた。
生暖かい風が、山から降りてくる。
「山火事と言うか、小火があった場所に来てみたけど……」
「何か気になる事でも?」
悩み唸るナギに問いかけてみると、ナギは地面を指し示した。
示された先を見ると、そこには手のひらサイズの白いネズミがいた。ーーえ、怖い。
「ドブネズミじゃないからまだマシだけど、近寄りたくないわね…」
確か、黒死病ってネズミが感染経路だった筈。触るどころか、近寄りたくもない。
「正しくは、ネズミについたノミなんだけどね」
と、ナギは突っ込むが、どっちにしろネズミには近づきたくはない。と言うか、野生動物には近寄りたくないのが本音である。
若干睨みがちにナギを見た。ナギはそんな私に構わないで、まじまじと野ネズミを観察している。
「アレはハツカネズミ……?違うか……?いや、けどハツカネズミも野ネズミの一種だし……」
それより、小火があった側にいるとは。動物は火を恐れるって聞いたけど、もしかしてデマだったのかも。
なんて、一人で勝手にぶつぶつ言っている。私はナギの袖口を引っ張った。
バブル世代の親から聞いたアッシーくん。由来(?)は
移動手段 = 足 = アッシー
らしいです。
ちなみにミツグくんと言うのもあるらしく、「貢ぐ」から来ているらしいです。
「お財布」とか「ATM」とかの言い方よりはマイルドな感じがありますが、それでもひどい…。
今回の解説回は、25日の12時更新です。
31日までに10万字にする為、1ページあたりの文字数を倍にしております。長くなってしまい申し訳ございませんm(_ _)m




