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小噺-過去編ver①

 ナギの食い意地が張っているのは、今に分かった事ではない。特に甘味に目がなく、15時のおやつと称して、毎日ルカに買いに行って貰ってる。ちなみに、リクエストがない日はルカが選ぶ事となっており、


「地味に頭を使う」


とぼやいていた事がある。と、言うのも


「好みじゃなくても食べるけど、後から別の奴に餌付けされてたんだよ」


新参者のルカでも分かる様に、ナギの好みかどうか、食べる様子ですぐに分かる。よって「あ、今日は違うのか」と分かるや否や、他の奴等が餌付けするが如くナギに食べ物を与えるのだ。

そして喜んで受け取るナギ。その様子を初めて目の当たりにした時、ルカは敗北感と怒り、そして嫉妬を覚えたのだった。


 そして本日のおやつは、黄色いタルト。以前から懇意にしている店から「新発売するので是非!」と宣伝された物だ。


「あんたも難儀してるわね……」


と、風見が切り分けられたタルトを見る。ナギはいそいそと紅茶を取り出した。そしてティーポットにウォーターサーバーから水を入れ、風見に差し出す。


「……沸騰手前くらいに温めて貰えないでしょうか」


「ナギ…あんたって子は」


そう言いながらも、風見は指をパチンッと鳴らす。すると、見る見るうちにティーポットがあったまったのだった。


「さすが全能者!風見様、ありがとうございます!!」


そう煽てながら、ナギはポットに茶葉を入れた。砂時計をくるりと回す。その様子に、俺は目を丸くした。


「なんか…らしくないな」


「どこが?」


ナギと風見が顔を見合わせ、同時に首を傾げる。俺はナギが置いたティーポットを指した。


「いや…お前なら紅茶の正しい入れ方を知っていると思って」


「あぁ、なるほど」


ナギは納得し、そして少し拗ねた表情を浮かべた。


「茶葉を開かせる為に、高温のお湯と合わせる為にはこうしないと」


あぁ、そうか。と今度は俺が納得した。

紅茶の基本的な入れ方は、温めたポットに茶葉を入れて、そこにお湯を注ぐ。そして数分程蒸らすのだ。

風見は水分子の動きを活発にして、水温を上げた。それは徐々に温度が上がっていく。

故にナギは、お湯に茶葉をぶち込むと言う行動に出たのだ。


「一番いいのは、私に頼まずに沸かす事じゃないかしら?」


と、風見はこめかみを押さえながら言ったのだった。


そして時計の砂が全部落ち、ナギは「漸くデザートタイムだ」と意気揚々とカップに口を付けた。そして一口飲んだ後、額を押さえ「うわあぁ」と絶望した様な声を出す。


「ナギ!?どうしたの?」


そう問う風見に、ナギは「一口飲んでみて」と紅茶を促す。そして恐る恐る二人はカップに口を付けると


「……薄い」


「そうね…色も、香りも」


お互いの感想を述べ、ナギに視線を戻す。ナギは「忘れてた……」と呟いた。


「忘れてたって何をだ?」


「水を」


水?と聞き返し、俺と風見は顔を見合わせた。次いでウォーターサーバーの方を見る。そう言えば、先日、業者を変えたんだっけ。


「前は軟水だったのを、硬水に変えたんだよ」


軟水と硬水の違いは硬度。

カルシウムやマグネシウムを多く含む硬水は、紅茶に含まれるタンニンと結合し、風味や苦味を弱めるのだ。


「ナギでも、そんなミスするんだな」


と、項垂れるナギを眺めながら呟いた。


気を取り直して、ナギは本日のおやつを口に含んだ。そして一口食べて目を見開く。


「これ、トルタ・ディ・リーゾ?初めて食べた!!」


本当に甘いんだなぁ、と一口食べて、ケーキの名前を当てるナギ。買ってきた張本人である俺はちゃんと聴き取れたが、風見は無理だったらしい。「とるたりりーぞ?」と呂律が上手く回っていないような声を出す。

ナギは「まぁ、米は糖質だし甘いよな」と幸せそうに食べた。ーーどうやら、紅茶ショックから立ち直るくらい、気に入ったようだ。心の中でガッツポーズする。


「お米を使ったケーキだよ。米粒の形が残っているだろう?」


「言われてみれば、確かに」


そう言って、風見はもう一口食べた。そして


「米を使った物なら、私はお酒の方が好きだわ」


と呟いたので、今後は風見の分は取り分けない事にした。

明日からまた本編に戻ります。

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