過去編-ルカ君、それは駄目
サルトゥスに一泊していくよう言われたとルカに伝えると、ルカは驚きと困惑の表情を浮かべた。
「父さんがそう言ったのなら、仕方がないが…」
客室なんてものはないから、ソファで寝てもらう事になるぞ。と、言いリビングに置いてあるソファを見やった。
「しかも残りの一人は、寝る所がないし。父さんはお前一人だと思ったから、そう言ったんじゃないか?」
その可能性はある。うーむ、と悩む私に風見は「もう用事は済んだのだし、帰りましょうよ」とイラついたように言ってきた。その様子から、待っている間に喧嘩でもしたと、推測する。
私は「おそらく大丈夫だと思う」と返した。
「何故!?」「どこが!?」
お前ら、息がぴったりだなー、なんて呑気な事を思いながら
「取り敢えず、お腹空いたからご飯を食べたいな」
と、提案してみた。
風の音が強くなる。日が沈み、雨雲がもうそろそろやってきそうだ。今夜はやはり嵐になるのだろう。
外の天気を気にしつつ、俺は台所で野菜を洗っている。その隣で、ナギは鍋をかき混ぜていた。
手伝いと称しているが、毒や薬を仕込まれない様にする為の監視だろう。むしろ逆に、仕込もうとしているのか?
「ルカ君、それは駄目」
「なんでだよ?」
俺はすりおろしていた手を止めた。手に持っているヤマイモを咎められる。
ナギは鍋の灰汁を取りながら「それはヤマイモじゃない」と言い放った。
「粘り気がないだろう」
「粘り気?」
すりおろしたものを軽く摘むと、確かにいつもと違う。まるですりおろして林檎のようだ。
ナギは「毒だから捨てて」と恐ろしい事をさらりと曰った。
「それはグロリオサって言う植物の根だよ。コルヒチンと言う猛毒が含まれている」
マジか。自分一人だけだったら「いつもと違うな」と思ったぐらいで、そのまま白米にかけていただろう。
父さんに食べさせなくて良かった。
「ちなみに、今手に持っている物も無理だよ」
「……」
サトイモだと思っていた芋を無言で捨てる。採ってきた山菜の籠から、今度は行者ニンニクを選んだが
「残念ながら、それも食べられない」
そんなやり取りを、ソファに座ってこっちを見ていたカザミは嘲笑した。
「ナギが来なかったら、1週間後には死んでたんじゃない?」
余計なお世話だと、言い返せないのが悔しかった。
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