過去編-私は貴方に復讐する
部屋の中は薄暗かった。灯りはサルトゥスの側にある卓上のランプだけで、空気は淀んでいる。ちなみに、ランプの隣にはスズランが生けてあった。
「ルカがこまめに換気をしてはくれるんだがな」
くぐもった声で、サルトゥスは言った。そして側にある椅子を示し、座るように促す。
私は素直に従った。
「はじめまして、私は"ナギ"」
「君が凪ーー」
サルトゥスは目を細めて、噛み締めるように頷いた。
「君には申し訳ないと思っている…」
意識が朦朧としているのか、うわ言のように話す。しかし私は目を伏せて、本題をぶつけた。
「私は貴方に復讐する」
それは決定事項。知恵の女神との契約。
ーー私の願いを叶え続ける為の条件。
面と向かって「復讐する」と言われたサルトゥスは、意識をはっきりさせた。
「私の命で償えるなら、煮くが焼こうが好きにしていい」
ただーー
「ルカには手を出さないでくれ」
大事な、大切な自分たちの宝。それがルカ。
そう想っている事が、ありありと分かる。私は憐みの眼差しを向けた。ーー今のサルトゥスに、息子を守る力はない。
だから、私に懇願するしかないのだ。
「…貴方達の一番の弱みを知っていながら、見逃せと?」
なんて意地の悪い事を聞くのだろう。私は内心、苦笑した。
サルトゥスは一層、顔色を悪くしながら「頼む…!」と言った。
「ルカは何も知らないんだ…!あれは、あの選択はーー」
そこでサルトゥスは言葉を切った。続く言葉が、あまりにも自分勝手なものだと分かったからだ。
私は微笑を浮かべた。
「"仕方なかった"と言わなかっただけでも、評価しましょう。ーー安心して下さい。親の罪は子の罪ではない。貴方達の皺寄せを、彼が受けるのは不当だ」
そう、罪を犯した者が贖うべきなのだ。
「……そうか」
私の言葉に、サルトゥスは静かに頷いた。逡巡すると、
「……今日はもう遅い、夜には嵐が来る」
泊まって行きなさい、と言うとサルトゥスは身をベッドに沈めて目を閉じた。私は「分かった」と言い退室する。
ーー死期を既に悟っていると言うことか。
堂々と復讐しにきた、と言った奴を泊めるなど正気ではない。故に、何か仕掛けてくる可能性がある。
ーーいいだろう、受けてたとう
私は艶笑を浮かべた。




