表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/325

小噺⑤-2

「貴方は…ルカさん?」


「お久しぶりです。オヤジさんはお元気ですか?」


秤売りの息子は「故郷で隠居生活を楽しんでます」と返してきた。俺達のやり取りに、客の三人の苛立ちが更に募っていくのが分かる。


まずい、早く本題に入った方がいい。


そう判断した俺は「それより、何があったんですか?」と問うた。

商人は「伝言ミスと言いますか…自分のミスです」と申し訳なさそうに、非を認めつつ話し始めたのだった。


「父が受けた注文なんですが、此方のお三方のお父上が他界されまして。その遺産分割として遺言状が残されていました。

お父上は『平等な分配』を願っており、家や土地と言った分割できない物については全て、宝石をあしらった21個の瓶と薔薇の精油に交換されました」


そう言って示したのが、側にはあった瓶である。

商人の言葉を引き継ぐ様に、今度は三人のうちの一人がずいっと一歩前に出てきた。


「そのうち7つは精油で満杯、7つは半分だけ、残りの7つは空の状態だ」


そしてギロリと商人を睨む。


「7人に満杯・半量・空の瓶をそれぞれ1つずつ、と勘違いしたらしくてな。精油は封を解くと、酸化が始まり価値が低くなる為に中身を移す事も出来ない」


なるほど、と俺は納得した。どうするつもりだ!と怒鳴っていたのは、均等な遺産分割が出来ない事に対してか。


俺はチラッと瓶を見やった。


「つまり、一人あたり3.5杯の精油と7本の瓶が貰えれば問題はないわけだな?」


「ああ、そうだ」


俺の問いに、4人が訝しげに見てきた。しかし俺は気にせずに腕を組む。そして背後から微かに聴こえてくる「クスクス」と言う笑い声に耳を済ませた。

ーーナギの奴、もっと複雑な事情だったらどうする気だったんだ。


これくらいの問題なら、自分でも解決出来る。

ーーそれとも、アイツには既に分かっていたのか?


自分の背中を押した時、既に事情を察していたのだろうか。または、どんな難問だろうと解決出来ると言う自信があったのか?


後で「どう言うつもりだった」と問い詰めてやる。

そう決意すると、俺は咳払いをして答えた。


「満杯の瓶を2、2、3に。半分の物を3、3、1。空を2、2、3に分ければ問題ないはずだ」


分け方のポイントは、半分しか入っていない瓶だ。

一人3.5杯という事は、必ず各自が奇数個になるようにしなければならない。つまり組み合わせとしては「5、1、1」か「3、3、1」である。


前者の分け方だと文句を言われそうだったので、「3、3、1」の方で残り分を考える。


半分量の瓶3本は1.5杯、1本は0.5杯。よって満杯の瓶を一人3.5杯になる様に「2、2、3」とすれば自ずと空瓶も本数も決まる。


俺の回答に4人は納得し、ついでに周囲の野次馬達からも拍手が起こった。


俺は背後を見やると、ナギはニヤニヤと笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ