小噺⑤-2
「貴方は…ルカさん?」
「お久しぶりです。オヤジさんはお元気ですか?」
秤売りの息子は「故郷で隠居生活を楽しんでます」と返してきた。俺達のやり取りに、客の三人の苛立ちが更に募っていくのが分かる。
まずい、早く本題に入った方がいい。
そう判断した俺は「それより、何があったんですか?」と問うた。
商人は「伝言ミスと言いますか…自分のミスです」と申し訳なさそうに、非を認めつつ話し始めたのだった。
「父が受けた注文なんですが、此方のお三方のお父上が他界されまして。その遺産分割として遺言状が残されていました。
お父上は『平等な分配』を願っており、家や土地と言った分割できない物については全て、宝石をあしらった21個の瓶と薔薇の精油に交換されました」
そう言って示したのが、側にはあった瓶である。
商人の言葉を引き継ぐ様に、今度は三人のうちの一人がずいっと一歩前に出てきた。
「そのうち7つは精油で満杯、7つは半分だけ、残りの7つは空の状態だ」
そしてギロリと商人を睨む。
「7人に満杯・半量・空の瓶をそれぞれ1つずつ、と勘違いしたらしくてな。精油は封を解くと、酸化が始まり価値が低くなる為に中身を移す事も出来ない」
なるほど、と俺は納得した。どうするつもりだ!と怒鳴っていたのは、均等な遺産分割が出来ない事に対してか。
俺はチラッと瓶を見やった。
「つまり、一人あたり3.5杯の精油と7本の瓶が貰えれば問題はないわけだな?」
「ああ、そうだ」
俺の問いに、4人が訝しげに見てきた。しかし俺は気にせずに腕を組む。そして背後から微かに聴こえてくる「クスクス」と言う笑い声に耳を済ませた。
ーーナギの奴、もっと複雑な事情だったらどうする気だったんだ。
これくらいの問題なら、自分でも解決出来る。
ーーそれとも、アイツには既に分かっていたのか?
自分の背中を押した時、既に事情を察していたのだろうか。または、どんな難問だろうと解決出来ると言う自信があったのか?
後で「どう言うつもりだった」と問い詰めてやる。
そう決意すると、俺は咳払いをして答えた。
「満杯の瓶を2、2、3に。半分の物を3、3、1。空を2、2、3に分ければ問題ないはずだ」
分け方のポイントは、半分しか入っていない瓶だ。
一人3.5杯という事は、必ず各自が奇数個になるようにしなければならない。つまり組み合わせとしては「5、1、1」か「3、3、1」である。
前者の分け方だと文句を言われそうだったので、「3、3、1」の方で残り分を考える。
半分量の瓶3本は1.5杯、1本は0.5杯。よって満杯の瓶を一人3.5杯になる様に「2、2、3」とすれば自ずと空瓶も本数も決まる。
俺の回答に4人は納得し、ついでに周囲の野次馬達からも拍手が起こった。
俺は背後を見やると、ナギはニヤニヤと笑っていた。




