解説:いや、100を知る奴だよ
睨んでくる風見に、私は不敵な笑みを浮かべた。
「まずは風の国と秘密裏に行なっていた、硫黄の売買について」
これはアイに既に話している。問題はここからだ。
「風の国は、土の国に硫黄を輸出していると思っていた。だが、実は違う」
ルカが荷物から、紫色の鉱物を取り出した。風見は目を見開く。
「何故それを!?」
「くすねてきた」
悪気なく答えるルカ。私は言葉を続けた。
「それはレアメタルの1つ、リヒトシュタールだろ」
特有の色と光沢を持つ、この世界でしかまだ発見されていない鉱物。
ルカが今持っているのは原石の為、黒ずんではいるがアメジストなどの宝石とは違う事は明らかだ。
「リヒトシュタールの希少性は、これの持つ効果と、産出場所が分かっていなかった事だ」
リヒトシュタールの効果、それは魔力増量。増加率は、鉱物の大きさではなく純度に比例する。
「どうやって知ったのかは流石に分からないが、アルカナは風樹の街にある鉱山にリヒトシュタールが産出する事を知った」
それは風の国の連中も知らなかった事。故に
「アルカナは買い取った硫黄を輸出するフリをして、採掘したリヒトシュタールを土の国へ輸出していたんだ」
具体的な流れはこうだ。
・秘密裏に風の国から硫黄を買い取る契約をする。
・硫黄の採掘をするフリをして、リヒトシュタールを採掘する。
・怪しまれないよう、リヒトシュタールを硫黄と共に風の国から土の国にある工場へ輸出する。
「密輸や採掘時に多少怪しい所があっても、風も土も見て見ぬふりをするだろう。もしバレたとしても、各国の上層部は隠蔽するはず」
自分達も悪事に加担しているが故に、被害者として抗議出来ない。何も言わずに隠蔽してくれる筈。
これが『アルカナの方がもう一枚上手』と言った理由だ。
「ちなみに、アルミニウム粉末は還元剤か?」
銅や鉄の様に大抵の鉱物は発掘時、酸化している。
リヒトシュタールは精製されている程、効果が高いのだ。
アルミニウムの還元性を利用する為に、火の国で精製していたのか?
風見は「半分正解」と憎々しげに、だけど鼻で笑った。ナギも全て見通している訳ではないと分かったからだ。
「精製するだけなら、もっと効率がいいやり方はあるわよ」
「となると、リヒトシュタールとアルミの合金を作っていたのか?」
アルミニウムとの合金として、亜鉛やマンガンがある。銅との合金では、ジュラルミンと言われ鉄鋼材料に匹敵する程の強度を持つのだ。
リヒトシュタールは、純度が高いほど良いとされている。しかし加工が難しいとも聞いた事があった。
それなら合金にして、加工のし易さや耐久性を上げた方が実用的だ。
正解だったのか、風見は舌打ちする。
「あんたの頭の中、どうなってるのよ!?」
どうもこうもないわ。私は高笑いする。
ルカがボソッと
「1を聞いて10…いや、100を知る奴だよ」
と呟いたが、残念ながら風見には届いていなかった。




