⭐︎直接会うのは初めてね
日向の勧めもあって、風見は工場に来ていた。ここには風の国から搬入される密輸品が届けられ、それを加工している。
「問題は?」
「特にありません。予定通りの量が来ています」
そう、と満足げに風見は頷いた。日向は心配し過ぎなのだ。
とその時、無線から声がした。
「緊急!緊急!侵入者です!」
「まさか!!」
風見の頭に、ナギの顔が過ぎる。しかし、
「おそらく風使いです!赤髪のーー」
無線が切れる。しかし今の情報だけで充分だった。赤髪の風使いとなれば、相手は誰だか容易に想像がつくからだ。
「風神の姫君、アイね」
風見は艶笑を浮かべた。ナギとアイに関わりがあるのは、調査で分かっている。
「今日は持ってこなかったけど、場所がいいわね。あれの効果を試せそう」
そう呟くと、風見は無線を飛ばして来た場所ーー輸入品の保管庫へと向かった。
保管庫には、風の国から持ち込まれた輸入品が一時的に置かれている。これらは後で加工されるのだ。
現在は、先程搬入された分しか置かれていない。コンテナごと置かれていた。
風見が到着すると、その場にいた部下達は全員倒されていた。侵入者はフードを被っていたが、戦闘で髪が間から少し溢れており、赤髪だと分かる。
風見はにんまりと笑った。
「直接会うのは初めてね。風神の姫君」
「……」
侵入者は何も答えない。ただ真っ直ぐに、やってきた風見を見つめた。ーーいや、と風見は考え直す。
おそらく間合いを測っている。
だから風見も、お互いの間合いのギリギリで立ち止まった。
「自己紹介は必要かしら?それともナギから聞いてる?」
わざとらしく小首を傾げて見せる。しかし相手は何も反応しない。
風見は苛立ちを隠さずに言った。
「面白げのない奴ね。ナギならまだ何か言って来るわよ」
大抵は、風見の気を逆撫でする様な事だが。それでも無反応よりは、幾ばくか可愛げがある。
そう言うと、ようやく相手は反応した。
突撃してきたのだ。
「馬鹿ね!全能者である私に突っ込んでくるなんて」
4大元素全てを扱える者を、敬意を表して全能者と呼ぶ。風見は指先を向けた。そして炎を出そうとする。
相手は風神の姫君。風の魔法では敵わない。
だが、他の魔法なら話は別だ。しかし、
「フェアリーリング」
目の前に光輪が現れる。そして炎を呑み込んだ。
「まさか!?」
声のした方を見ると、コンテナの入り口に佇むルカがいた。驚愕の表情を浮かべる風見。
ちょっと待て。ルカと一緒という事は、こいつはアイではなくーー
ルカは風見に構わず、コンテナを開ける。
そして光輪を今度は風見の上に展開し、中身をぶち撒けた。
紫色の鉱石が降って来るーー筈だった。
反射的に身を屈め衝撃に備えた風見だが、実際に降ってきたのはアルミニウムの粉末だった。
驚きの連続によって、風見に隙が生まれる。
それを見逃す程、相手は甘くなかった。
「私に何か言ってもらえるのが、実は楽しみだったなんて知らなかった!」
相手は風見に体当たりする。バランスを崩した風見の腕を掴んだ。そして大外刈りを食らわせる。
地面に押し付けられ動けない様、相手は風見の腕を締め上げた。動きの反動でフードが完全に取れる。
風見は憎々しげに、目の端で相手の顔を見た。
風見の嫌いな、自信に溢れた黒い眼が、そこにはあった。
「さて、解説を始めましょうか」
ナギは艶笑を浮かべたのだった。
11,12日は解説回(風の国との繋がりについて)
13,14日は真相回(フルメンの「同盟結ばない」発言)
です。




