⭐︎何故、こんな事を……?
風の国は、土の国により開拓されたと歴史ではそうなっているが、実は先住民がいた。
それが、天候の村の祖先。
優秀な風使いの多くが、天候の村出身だったりする。
これには理由があり、あの土地には魔力が溜まりやすく、母胎にいる頃からずっとその魔力の影響を受けて育つ為だ。
ーーこの事実を知っているのは、村の村長含めた一部の人間だけである。
『この土地を守れ』
その事実を教えた上位の存在が言った。
『後の世に、風に愛されし赤毛の女が生まれる。その存在を見つけ出せ』
その存在はその見つけ方を話すと、去って行った。
ーーそのせいで、赤毛の女子が生まれる度に行われる、ある因習が生まれたのだ。
当時、アイは10歳だった。
生まれながらに魔力も多く、同世代の中では飛び抜けていた。
そう、年齢の割には。
成人した魔法使い達には、当然敵う訳がない。精々、将来が楽しみと言った具合である。
ーーそれでも、村長は因習を重んじたのだ。
「何故、こんな事を……?」
アイは目に涙を溜めて問うた。しかしミゾレは何も答えない。ただ、アイをじっと見つめる。
「先生、なんで……?」
きっと、自分は何か悪い事をしてしまったのだ。だから怒って、こんな魔法を使ったのだ。
ーー目の前では、ミゾレが起こした嵐が村を襲っていた。
「さぁ、アイ」
ミゾレは両手を広げた。そして
「どうしなければならないか、貴女は知っているでしょう?」
魔法で既に作り出した嵐を止める為には、術者を殺さねばならない。
ミゾレは止める気がないのか、被害はどんどん広がっている。
「貴女が止めなければ、他の人が死ぬのよ」
「貴女が殺すの」
「貴女が選ぶの」
「誰を殺し、誰を生かすのか」
アイは泣きながら、ミゾレの心臓を刺した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
大粒の涙を流しながら、幼いアイは泣き崩れた。
そしてーー魔力は暴走した。
自己流詠唱は、生命の危機または多大な精神的苦痛によって発現する。
突然のオリジナルの発現に、アイは魔力を一気に持っていかれ、その場に倒れた。
そして術者の制御がない魔法は暴走し、ミゾレが起こした嵐よりも巨大な台風が現れる。
「アイ!!」
アイが目を覚ましたのは、ベッドの上だった。心配そうな顔で、ヒナタが側にいた。
ヒナタが言うに、一時的被害は大きかったが、嵐は突然消失したらしい。
おそらく、アイの魔力がそこまで多くなかったからだろうと、村長は言っていた。
『師を殺し、自己流詠唱を発現させた者が風の愛し子だ』
それが、上位の存在から教わった方法だった。
ーーこの存在が誰なのか、流石のヒナタもこの時は知らなかった。
そしてこの後に、何処で、何が、起こったのかも。




