⭐︎東から吹く風が、
電話が鳴る。朝から誰だよ、と思いつつ、アイはスマホの画面を見た。そして目を見開く。
『もしもーし、起きてるぅ?』
「らしくない口調で話すな、ナギ」
ナギとは、三日前に別れた。あの後、無事に土の国に入国出来たようだ。
ナギはおかしそうに笑いながら問う。
『あの後、どうなった?忙しくてなかなか連絡できなかったんだよね』
アイからは連絡しないよう、ナギに言われていた。
土の国の現状が分からないし、もし本当に戦争を起こすなら通信系統は盗聴されているかもしれないからだ。
アイはベッドから出て、カーテンを開ける。外は快晴だ。
「なんとか助けられたよ。それより、連絡して来たって事はやはり噂はデマだったのか?」
『それなんだけど、ちょっと調べて欲しい事があるんだ』
それによっては、だいぶ面倒な事になると付け加えられる。
内容を聞いたアイは、額を抑えた。
「……ナギに関わると難題を突きつけられている気がする」
『そこまで難しい事は言ってない!』
それはお前基準だろう、とアイは溜息をついた。
電話を切った私に、ルカは尋ねた。
「首尾は上々か?」
「どうだろうな。全てはアイにかかってる」
私は艶笑を浮かべた。
「東から吹く風が、私たちの追い風になってくれる事を祈るばかりだ」
あいの風ーーそれは東から吹く恵風の意
風神の姫君ーー彼女がそう呼ばれる様になったのは、いつの頃からだろう。
ヒナタは風樹の街に来ていた。アイがナギの指示で出かけたと知り、急いで後を追って来たのだ。
先日のナギの言葉が思い出される。
ーーアテナ様は全てに復讐しろと言った。
アイは今、ナギの指示で動いている。助力を願うふりをして罠に嵌めようとしているかもしれない。
ーーアイの身に危険があるかもしれない。
そう思うと居てもたってもいられない。だが、事情は話せない。
話すとなれば、自分の正体も話さなけれきっと信じて貰えないからだ。
「ナギはお前に復讐しようとしている」
「何故そんな事が分かるんだ?」
「あいつはアテナの眷属で、アテナからそう言われているからだ」
「何故、ナギがアテナの眷属だと分かったんだ?」
「俺は理と同等の存在だから気付いた」
こんなやりとりになるに決まっている。言える筈がない。
何より、正体である真理と同等である事を知られ、批判されたらと思うと怖くて言えなかった。
「何故、あの時助けてくれなかったの」
頭の中の幼いアイが、ヒナタを責める。ヒナタは幼い姿で「すまない」と耳を塞いだ。
ーーー当時は既に、自分が理と同等の存在だって分かっていたのでしょう?
ーーーあの時、ヒナタがもっと早く助けてくれたなら
ーーーミゾレ先生は死ななかったのに
アイへの愛おしさと同じくらい、拒絶され憎悪される事が怖い。
ヒナタはどうしても言えなかった。
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今月中に、あと5万文字…。
書き溜めてある分を除いてもおそらく残り3万文字…。
間に合うか…?いや、間に合わせてみせるっ!!




