⭐︎あいつにも勝てるはず
土の国が、風の国に突然の宣誓布告を行った。
その知らせは、火や水の国にもーーつまり二キス大陸全土をすぐに駆け巡る。
「準備は上々ね」
そして事の仕掛け人は、土の国の貴賓室で優雅に紅茶を飲んでいた。
風見は、タブレットでニュースを眺める。
『突然の宣誓布告!』『土の狙いは?』『風の国、再度属国になるか?』
などなど、ホットな話題になっている。笑みを浮かべてタブレットを見ていると、メールを受信した。
開封すると、相手は日向だった。メールに本文はなく、ただ資料が添付されている。
資料を開くと、風見は顔を顰めた。
「これって…」
呟くのと同時に、扉がノックされた。風見の返事も待たずに入ってきたのは、日向である。風見はさらに眉間に皺を寄せたが、日向は気にせず開口一番に「資料見たな」と聞いた。
「私は監視でもされているのかしら」
「まさか」
日向は鼻で笑い、風見に添付資料を見るように促す。
「これって、輸入データじゃない」
「そう、密輸のな」
それは風の国から土の国に密輸していた物のデータだった。風見が部下から報告されているものと、特に変わった所はない。
「風の国の動きがおかしいんだ」
「おかしい?」
聞き返す風見に、日向は頷いた。
「風樹の街と、その近くの鉱山辺りを国が捜索している。もしかしたらバレたのかもしれない」
「けど、まだ捕まってはいないでしょう」
部下からそんな報告は受けていないし、毎月の密輸量にも変化はない。
一時期見つかりかけたが、イエティと言う思いもしなかった噂のお陰で有耶無耶になった。
「脱線事故があったらしいけど、その後も特に変わった事はなかったわよ」
「……その脱線事故だが、ナギが乗っていたらしい」
ナギ、と言う名前に風見はピクリッと反応した。
赤い髪を靡かせながら、黒い目に自信が満ち溢れているあの女。
タブレットを持つ手に、力が入る。
「別に構わないわよ。ーーどうせフェイクだし」
これは負け惜しみではない。風見はそう言い聞かせるように答える。
その様子に日向は呆れた様な顔をしつつも、今度は鞄から小箱を取り出した。
「取り敢えず、お待ちかねの物を持って来たぞ」
「!!」
パッと顔を上げ、風見は日向から小箱を受け取った。
白い箱に水色のリボンが架けられている。
可愛らしいその小箱を開けると、中には紫色のステンレスリングのような、シンプルな指輪が入っていた。
風見は歓喜する。
「ありがとうっ!!」
滅多に見せない屈託ない笑顔に、日向は「いつもこんな感じに素直ならいいのに」と内心で思う。決して口には出さないが。
「これで、あいつにも勝てるはず」
風見は指輪を眺めるながら呟いた。




