小噺④-3
数日後、俺は紫が通っている教育機関に来ていた。通された部屋には、理事長に担任、相手の子供とその母親、そして紫が座って待っていた。
相手の母親はこちらを睨み付けながらも、目の奥は笑っている。
ーーあぁ、やっぱり反対派か
氷雪の国は、選民主義が根強い。時代の流れやらナギの努力やらで、現在、国は人工能力者を受け入れてはいる。しかし臣下達は納得していない奴等が多い。
今回の事件も、そう言った親からの影響で紫が標的になったのかもしれない。
いつ俺が頭を下げるのか。今か今かと待っているのを尻目に、俺は咳払いをした。
「結論から言いますが、こちらに非はない」
「貴方、何を言ってるのか分かっているの!?」
分かってないのは、そっちだろう。俺は無視して、紫の頭に軽く手を置いた。
「当然だろう。コイツがやったと言う証拠がないんだから」
「うちの子が嘘をついたとでも!?それに、その子は人工能力者じゃない!」
その通りだよ。俺は紫の頭を撫でながら、相手の親を睨んだ。
「ペットボトルの破裂の事を言っているのなら、誰だって出来るぞ。ドライアイスを使えばな」
ここで初めて、母親の隣で笑っていたガキが反応した。俺はチラリと視線をやったが、すぐに戻す。
「ドライアイスを入れて密封すれば、いずれ二酸化炭素になって体積が膨張、破裂する」
破片に付着していた水滴は、冷たくなったペットボトルの近くの空気が水になっただけだ。
「それに、此処に来る前に調べたらこんな映像が出てきたぞ」
そう言って、とある店の防犯カメラの映像を見せた。そこには複数のジェラートを買っているガキの姿が映っている。
ジェラートが入った箱の周囲には、溶けないようにドライアイスが包まれていた。
母親は顔を青くしながらも、金切り声で主張する。
「偶然よ!!その子がアンディーーうちの子を嵌めようとしているのよ!!本当は魔法を使ったに違いないわ!魔法を使っていないと言う、証拠を見せなさいよ!」
そう言われ、俺は目を瞑った。あぁ、ナギはここまで見通していたのだろうか?それとも偶然か。偶然だと思いたい。
ーーナギとの差を、これ以上感じたくない。
俺はゆっくりと目を開けると、ある書類を取り出した。実を言うと、これを取りに行っていたので遅れてしまったのだ。
「これは公的に検査した物だーー紫の能力は分子運動の停滞。水滴を気体にする事は出来ない」
ナギの姿を思い浮かべながら、俺は言った。
明日は後日談。
ナギとルカの会話です。




