解説:あんたはどこまでやれるかな?
だから私が助け舟を出してやろう。
その舟は泥で出来ているが。
沈む前に泳ぎ切れるかは、アイにかかっている。
私はおろか、日向やーー風見でさえ不可能なそれを。
わたしは一瞬だけ艶笑を浮かべ、すぐに真顔へと戻した。
「絶縁体として代表的なのはゴムやガラスだが、気体も絶縁体の一つだって知ってるか?」
「はぁ?」
アイが間抜けな声を上げるが、私は構わず続けた。
「最も身近な気体絶縁体は、空気だ。他にも六ふっ化硫黄ガス、水素ガスなどがある」
「……」
「それに圧力を上げることで、絶縁力を高められる」
「……」
ようやく私の意図が分かったらしい。アイは喰い入る様に聞き入った。
「問題は、風が吹くだけでも絶縁耐力が落ちる事だ」
「…つまり体の周囲に空気の層を作り、保ち続ける必要があるって事か」
理解が早くて助かる。だが、問題はそれだけじゃない。
「端的に言うと、体と外気に見えない壁を作るって事だ。つまり気体の行き来がないって事は、当然酸欠に陥る」
さぁ、風神の姫君よ。
「あんたはどこまでやれるかな?」
話し終えた私は、ルカに視線を送るーールカは頷くと、二人同時に座っていた枝から飛び降りた。
宙返りして着地する。と、同時に背中を合わせつつ、訪問者を睨んだ。
「ーー誰だ」
ルカはいつでも反応できる様、携えている剣の柄を持つ。私も抜刀できるよう身構えた。
相手は、ルカや日向にそっくりで色だけーーではない。むしろ、見かけだけが似ている。
私は喜びの声を上げた。
「まさか会えるとは!!」
私の様子に、二人は訝しげな表情を浮かべた。そうだ、ルカには話すのを忘れていた。
私は柄から手を離す。もし相手が本気で殺しにくるなら、私たちでは相手にならない。
おそらくルカなら存在したと言う事実さえ消されるだろう。ーーいや、まだこいつにそこまでの技量はないか。
「アテナ様とは別のーー上位の存在、理と同等の存在に会えるとはね」




