★金科玉条の如く
私は真剣な眼差しを向ける。
「アイ、あんたはそれを良しとするのか?」
「……」
押し黙るアイ。その様子に、私はとても嫌な言い方をした。
「罪人は助けたい、だけど身を挺して逃してやる程の度胸も無い」
「!」
アイは顔を上げ、私を睨んだ。事実だろう?とわざとらしく首を傾げてやる。
「親の罪は、子の罪ーーそんな訳あるか」
きっとアイもそう思っている。
だけど、どんなに心を痛めようと現状は変わらない。
だから私が助け舟を出してやろうーーその舟は泥で出来ているが。
アイは生まれ育った村の中を、目立たぬよう動いていた。ーーつもりだが、どうしても注目されてしまうのは、仕方がない事だ。
何せ、アイは風神の姫君と呼ばれる程の実力者。
そして勅命で度々家を空けている。そんな奴が久しぶりに帰ってきたのだ。
「久しぶりだな」「帰ってきたのか」「暫くは村にいるの?」と声を掛けられる。
しかも昨日、そっくりな人物まで現れては、暫く注目の的になるのは必然だった。
「全く、ナギがこのタイミングで現れるとは…」
要らぬ注目を浴びたくはないのだが、殊に今日は。運が良いのか、悪いのか分からない。
アイは「報告する事がある」と村長の家へと訪れる。通されると、村長は「来たか」とアイを睨んだ。
「お考えは変わらないのですか」
「くどい。儂はしきたりを重んじる」
金科玉条の如く。
アイは憎々しげに村長を睨んだ。
どこが、黄金や珠玉のように善美を尽くした規則だ。絶対的なよりどころとして守るべき、しきたりだと。
「あの子が何をしたって言うのですか!」
「親が殺人を犯した」
バッサリと言い返される。何か間違っているかと、挑発的に村長はアイを見た。
「罪を犯した者の、一親等内の身内は処罰する。これは決定事項だ」
「そんな因習まだ続けているのは、この村くらいです!」
王政制度が残っている他国でも、王位争いの敗者は一族郎党処刑、なんて事はなくなった。どんな事があっても、王族追放が精々だ。
アイの言い分に、村長は憐みに似た眼差しを向けた。
「村から暫く離れたせいで、価値観が歪んだかーーそれか罪悪感か?」
「!!」
アイの瞳に、怒りだけでなく殺意が篭った。普段よりも低い声で「胴と首が離れたがっているのですか?」と問う。
「…これ以上、何を話しても無駄だ。下がれ」
「……」
まだ言いたい文句はある。だが、確かに時間の無駄だ。どうせ村長は考えを変えない。
アイは小声で失礼しますと言うと、部屋を後にした。




