小噺③
ミステリー要素ゼロです。そして魔法もなし。
あれ、ファンタジー×ミステリーだった筈なのに…。
黒猫を預かっていた時期の話。
「相変わらず、ルカは愛おしいなぁ」
「馬鹿にしてるだろう」
クスクスと笑うナギに、俺は顔を真っ赤にして恥ずかしげに睨んだ。
目の前には、粉チーズがかかったルッコラとツナのサラダに、牡蠣と明太子の和風パスタが夕食として置いてある。
抱えていた黒猫を撫でながら、ナギは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「昨日はひつまぶし、今日の昼は長芋とオクラのネバネバ蕎麦。3時のおやつはダークチョコレート」
「……」
今挙げられた物たちは、俺が用意した物だ。
あぁ、バレてる。俺はもうやめてくれと言わんばかりに、耳を塞いだ。
しかしナギはそれを許さない。
「最近暑かったし鰻に蕎麦は特に違和感なかったけど、チョコレートとこのメニューを見たらつい邪推しちゃうな〜」
クスクスとナギは笑う。そして下から俺を覗き込んで
「そんなに寂しかったの?」
意地の悪い笑みを浮かべながら、俺に追い討ちをかけたのだった。
鰻や長芋、オクラ、ダークチョコレートなどには滋養強壮の効果がある。
また、牡蠣は海のミルクとも呼ばれ栄養価が高いーー媚薬成分も含まれている。
「けど、ルッコラの媚薬は迷信だよ」
「え、そうなのか?」
モグモグと、ルッコラの葉を咀嚼しながらナギは言った。
レモン汁とオリーブオイルの組み合わせは、ナギの大好物だ。幸せそうにゴクンッと飲み込む。
「美容にいいのは確かなんだけどね。抗酸化作用とかあって、老化防止になるし」
まぁ、それはハーブの類なら大抵のものに当て嵌まるんだけど、とついでの様に言う。
次にナギは牡蠣をフォークでぶっ刺した。
「ちなみに、牡蠣は生牡蠣の方が効能は高いよ」
咀嚼して、うっとりとした表情を浮かべる。
「美味い…。食材の効能なんかに頼らずとも、普通に胃袋で掴めるよ、ルカ」
「俺は掴んだ先の事を求めてるんだが」
恨めしく言う俺に、
「それは要相談かな」
とナギはわざとらしく小首を傾げ、足元にいた黒猫は「にゃー」と鳴いた。
明日から本編です。
魔法>>>>>トリック
みたいな内容です。
お付き合いいただけたら嬉しいです。




