解説:ご満足頂けましたか?
「数日間、遭難していたんだ。まだ青い実を食べたとしても不思議ではない」
仮にいくらか早く成った物があったとしても、常に強風が吹いている環境だ。風除けもない状態なら、すぐに実は落ちるだろう。
桃の実が食べ頃であっても、地面に落ち、虫に食われていれば、手は出さない筈。
「微量とは言え、青酸だ。それに心身共に疲弊していたはず。だから密輸者を魔物と間違えた」
トンネル内で見つけた黄色い粉ーーそれは硫黄。
かつて硫黄は、火薬や医薬品、合成繊維の工業資源として重宝され『黄色いダイア』と言われた。
しかし現在は副次的に生産されるようになり、需要は低下。多くの硫黄鉱山は廃鉱となった。
「ダイアモンドの産地だなんて歴史を偽っているあたり、風の国も何か隠してそうですね」
解説が終わり最後にそう締めくくると、私は向かいに座る相手を見た。そして言ったのだ。
「ご満足頂けましたか?知恵の女神」
パチパチと、オリーブーー知恵の女神アテナは拍手する。
「いつから気付いたのかしら?」
「一人で桃を見つけた時です」
もともと、胡散臭いとは思っていた。脱線する事を、何故サイコメトリで読み取れる?極め付けは、車内で「果物が見えた」と言った事だ。
「あそこはトンネル内です。樹木の類が読み取れるなんておかしい」
それならまだ、千里眼を持っていると言った方が筋が通る。しかし
「"千里眼を持っている"なんて言ったら、私で遊べなくなりますもんね」
そう、私はひっそりやり過ごそうとしていたのだ。それをオリーブが引き摺り出した。
もしオリーブが千里眼の持ち主だったなら、私が周囲を使ってでもオリーブを主導とするように扇動しただろう。
それでは、私で遊べない。
「さらに言うなら、"オリーブ"は知恵の女神アテナの象徴です」
謎解きを終えた私は、ジッとアテナを見つめた。アテナは満足げに私を見る。
「最近、面白い事がなくて」
テヘッと小首を傾げる様に、私は手刀を叩き込みたくなる。しかし相手は上位の存在。
そんな事をしてしまったら、あとでどんな目に合うか…。
アテナは優雅に紅茶を飲んだ。そして形の良い唇を歪める。
「冗談よ。ただ、追い立ててみようかなって」
なお悪いわ!!と、側にある桃を投げつけたくなった私に、
「それで追い払えるのは、イザナミくらいよ」
と小馬鹿にしてアテナは笑ったのだった。
分かりにくい伏線その①
「*面白い事が起きるわよ」の下から2行目「顔面に桃」
と
「解説:ご満足頂けましたか?」の最後の一文「それで追い払えるのは、イザナミくらいよ」
→イザナギが黄泉の世界から追いかけてきたイザナミに桃を投げて追い払った、と言う所から。
次回は久しぶりに小噺です。一話完結。




