解説:美味しいわよ
その後、私は無事に橋を渡りきり風樹の街に救援を求めた。
トンネル内で待機していた者達は、無事に救助される。保護した後、事情聴取やらカウンセリングやら健康診断やらを受けさせられ、解放されたのは3日後であった。
その間ーー予想はしていたがーーオリーブとは一切顔を合わせなかった。
「お疲れ様」
「……」
そしてオリーブは優雅に朝食を食べていた。
私は現在、風の国が被災者の為に用意した、宿泊施設にいる。施設内にあるカフェでモーニングでも食べようと思ったのだ。
オリーブは、桃のジャムがかかったパンケーキを食べる。テーブルには、剥かれていない桃も置いてあった。
「ナギも食べたら?美味しいわよ」
ーー特に桃が。
私にだけ分かる様に口を動かした。
あぁ、やっぱりコイツは知っていたのだ。
私はオリーブの向かいに座った。水を一杯飲む。
トンッと軽くグラスを置いた。さて、どこから話すべきか。
「…まず、あの谷にイエティは生息していない」
一人で行動していた時も、車内に残った奴等も、脱線後にイエティに襲われる事はなかった。
「イエティだと言ったのは、あんただけだ」
「なら、あの事件はどうなの?」
あの事件とは、遭難者の話だ。
「確か、イエティを見ると病気になるじゃなかった?」
そう、イエティと遭遇すると病気になると言われている。そして遭難者は保護した後、体調を崩しているとニュースで言っていた。
私はオリーブの食べていたパンケーキを指す。答えを知っているだろうに。
「あそこにはまだ、桃の樹が自生していた。さらに水脈もある」
「あら、そうなの」
パクリッと、オリーブは一口食べた。私は言葉を続ける。
「桃の葉は、かぶれや汗疹への効能があり化粧水として売られていたりする」
桃の葉エキス入り、と書かれた化粧品は薬局などでよく見かけるだろう。だが、
「梅や桃、杏子と言ったバラ科の生の葉や種子、未熟な果肉にはアミグダリンと言う物質が含まれる」
アミグダリンは、体内で分解されると非常に強い毒性をもつ青酸(シアン化水素)を発生する。これを多く摂取すると、頭痛やめまい等の健康被害を引き起こすのだ。
「あら、私は普通に食べてるけど?」
「時間経過で分解されるからな」
熟した物ならば、別に問題はない。だが、
「私がそのニュースを知ったのは、随分前。
アイが源泉の街に来ると言う情報を仕入れた時だ」
その時期を考えると、まだ実は完熟になっていない筈。
「アイが源泉の街に来る」と言う情報を得てから、アイと出会うまで、かなり時間が空いています。
なので、その時期に得た「イエティ目撃情報」もかなり前の情報と言うことです。




