*本当に能力使ってないのかよ!?
風の国の特徴と言えば、山脈だ。風で岩肌が見えている谷から青々と緑が茂る峰々まで繋がっている。
町は各山々の盆地や高原にあり、入国するにはまず、谷を越えなければならない。入国審査を行う街が、谷の中腹辺りにあるのだ。
そんな地形の為、常に風が吹いており、入国するには向かい風を突き進む事になる。
『さらに強風である為、人の身では徒歩で辿り着く事は適わず、かつては風使いーー国民でも一部の者しか出入りが出来なかったらしいぞ』
ルカと源泉の町で別れる際、そんな事を言われた。
現在は技術が発達し、強風の中でも列車が通れる事から行き来が可能となっている、とも。
ちなみにこの技術は、自国の経済成長を心配した祖先達が作り出した物だが、アルカナによって更に交通網が発達したのだった。
「あと、昔はダイヤモンドの産地だったんだっけ」
山脈のいくつかは鉱山であり、金や宝石の輸出量を誇っていたのは過去の事。現在はその勢いは形を潜めているらしい。
現在、谷底を通過していた。通り過ぎていく物が、ほとんど岩しかない。
今はもう枯れたのかな、なんて思っていると
「お隣、良いかしら」
声をかけられた。振り向くと、妖艶な笑みを浮かべる女性がいた。
年齢は私より上だと思われる、美人。辺りを見回すと、ボックス席に一人で座っているのは私の所だけである。
後は2〜3人で座っていた。
荷物は上の棚にしまってある。私は「どうぞ」と返した。
女性は「ありがとう」と言って、ゆっくり座った。所作が美しい。艶やかな黒髪がサラッと流れた。
「…緑の黒髪って、本当にあるんだな」
「あら、随分古風な言い方ね」
つい言葉に出してしまった。私は少し恥ずかしくなり苦笑いを浮かべる。
女性はニッコリ笑って自己紹介していた。
「私はオリーブ、よろしく」
「ナギだ、こちらこそ」
握手まではしない。それに相手もあまり人と触れ合いたくなさそうだ。
薄手とは言え、白いレースの手袋をしている。日焼け対策用の物でも無さそうだ。もうすぐ秋だが、まだ残暑が厳しいこの季節には、少し不釣り合いな気がする。
オリーブは私の視線に気が付いたのか「あぁ」と己の手を見た。
「私、サイコメトラーなの」
「サイコメトラー!?」
思考や残留思念を読み取ると言われる能力。私の先生も持っていた物だ。
私は一瞬、身を引いてしまった。
やってしまった、と思ったが、オリーブは気分を害する事なく笑う。
「大丈夫、慣れているから」
「…すまない」
本当に申し訳なく思う。能力を持っていると言うだけで、何も害されていないのに。
ちなみに師匠曰く、オン・オフの切り替えが出来ない幼少期は地獄だったと言う。触れる度に知りたくもない事が頭の中に入ってくるのだ。
公衆トイレのドアに触れたら、他人の情事の映像が見えて吐き気がした、と愚痴を零していたっけ。
公共の福祉に反する事をするな、とも。




