交錯編-ヘタレ
「…完全に行き来ができなくなる前に、向こうに戻るべきだ」
そう言った俺に、風見はギラリと凄んだ。
「ヘタレ」
「……」
お前はガキか…と言いたくなるのをグッと我慢して、俺は軽く咳払いをすると言葉を続けた。
「無論、俺は残る」
「……」
ジト目を向けてくる二人に「何か文句あるか?」と続けた。それに対し口を開いたのは珍しく日向だ。
「わかっていると思うが…任務で来ている訳ではないから、もし巻き込まれてもアルカナは動かないぞ?」
「構わない。それにーーーひとつ、気になる事がある」
気になる事?と二人は同時に首を傾げた。俺は頷く。
「深奥とアルカナの繋がりについてだ。前身の時に金の精製に手を貸していただけで終わると思うか?それに賢者の石の原石、ナギの事もそうだ」
「…アルカナも賢者の石の生成に関与してる可能性は高い」
「けど、たかが金の生成ごときにアルカナが何年も関与するかしら?それこそ、今なんて世界企業のトップよ?」
賢者の石なんて作らなくとも、資金はいくらでもある。
「そう、だから金の生成が目的じゃないんだ」
俺は風見の言葉を肯定し、そして続けた。
「賢者の石は老体を成体に、そして不老不死を与える程の触媒だ。ーーーそんな代物なら、完全な魔力の器を作る事が出来るんじゃないか?」
アルカナが出来た目的は、人権を獲得する事。
そして、世界から提示されたものはーーー俺の言いたい事に気付いた日向は叫んだ。
「自己流詠唱!!そうか、オリジナルが発現しないのは、まず器が不完全からだと考えたのか!!」
風見も理解したのか目を見開き「ちょっと待ってよ…」と呟いた。
「ナギがオリジナルを使えるのって、賢者の石の素材だから…?」
「!!」
風見の呟きに日向は驚愕し、そして納得する。
ーーーもしかしたら、鵠沼は分かっていたのかもしれない。
ナギは必死にオリジナルを隠していたが、鵠沼は“ナギが使えると言う証拠”を手に入れられなかっただけで、ずっと意識していたのかもしれない。
いつ尻尾を出すか、と。