交錯編-映画の中だけにしてくれよ
組んでいた腕を解き、今度は腰に手を当てると私は「仕方ない…」と項垂れながら言った。
「良いように使われるのは、なにも今に始まった事じゃないし」
その代わり、後で覚えてろよ!と私は内心思う。
そして目の前に広がる光景に、もう一度目を向けたのだった。
「呪いか疫病か…」
現在の時刻は朝の7時。既に夜は明け、周囲が明るいせいで分かり難いが、この村は現在光の膜に覆われている。
視線の先ーー膜の内側では、村人が虚な目で徘徊していた。
そして先ほど、私に気付いた数名が私に向かって突撃し、膜に弾かれる。その様子に、
「ゾンビとか…映画の中だけにしてくれよ」
私は溜息を吐きつつ、とある人物に連絡した。
「予想通りだったよ、ラプライアス。まさか奴らの狙いに気付いたその日に、仕掛けて来るとはね…」
『先手は取られた。勝つにはどれだけ早く巻き返すかが重要だぞ』
「あぁ、分かってるよ」
私は村の奥ーーー以前泊めてもらったアイの家の方向を、悲しみの色を含んだ目で見つめた。
「ミイラ取りがミイラにならないよう、精々気を付けるさ」
アルカナ本部に戻った俺は早々に鵠沼総帥の元に行った。バンッと派手な音を立てて部屋にズカズカと入るーーー風見。その後ろを呆れながら俺が続く。
風見…お前、記憶が戻ってるんじゃないだろうなぁ?
と、思っている俺を尻目に、風見は「何を考えているんですか!!」と鵠沼総帥に食って掛かったのだった。
「一体、今何が起きているんですか!」
「それを調べるのが、お前達だろう」
巫山戯るな!何か情報持っているだろう!!と言う言葉を飲み込んで、風見はギリギリの理性で叫んだ。
「組織内の情報共有を言っているんです!!」
苛立つ風見に、鵠沼総帥は普段通り冷静にーーーとぼける。
「はて…?何のことだ?」
「っ…!」
お前は鵠なんかじゃない、この古狸め!と言う表情を浮かべた風見に、俺は「落ち着け」と軽く肩に手を置いた。風見はぎゅっと唇を噛み締め、俺を見る。
風見の言いたい事は分かる。だが、俺達の目的は鵠沼総帥と言い合いをする事ではない。
俺は風見の一歩前に出ると、鵠沼総帥に言ったのだった。
「風の国を切り捨てる、と言う事でよろしいんですね?」
「そうと言った覚えはないぞ」
「ですが、現在のアルカナの動きはそう見えますーーー風を切って、土に乗っかかるつもりだと」
「……」
俺の言葉に、ようやく鵠沼総帥は表情を変えた。眉を顰め「何が言いたい?」と表情で述べる。
俺はニッコリと作り笑いを向けて、爆弾を投げ込んだのだった。
「アルカナも噛んでいますよね?賢者の石の生成に」
-どうでもいい雑学-
鵠とは白鳥の事です。