解説:腐食するんだ
火山噴火後の夜、アイによって被害は最小限に抑えられたが、住民や観光客全員が一時避難を強いられていた。
避難所で、私とアイは合流する。
「無事だったか!」
「そっちもな」
私は駆け寄ると、アイに財布を渡した。
「スッた盗人を見つけたから、取り返しておいたぞ」
実際には、ルカから返してもらっただけなのだが、「ついでに成敗もしておいたぜ!」と嘘を吐くと、アイは苦笑した。
そして私は本題に入る。
「昼間に言っていた風の国の健康被害についてなんだが、火山ガスじゃない。おそらく、温泉の排水処理に問題がある」
「排水処理?」
首を傾げるアイに、私は頷いた。
「温泉施設から出る温泉排水には、フッ素、ホウ素、ヒ素などの有害物質が含まれている。それらを処理してから排水しなければならないんだ」
それ等がちゃんと処理されず、高濃度の状態で下水道に排水される。
「そして今回噴火した火山だが、どこかに噴気孔がある筈だ」
アイが確認した通り、噴火する前からあの火山は活発だった。
おそらく誰も気付かない場所に、前々から噴気孔が出来ていてもおかしくはない。そこから火山ガスが発生している筈だ。
「言っていたな?国境付近の街で健康被害が出ていると」
「あぁ。症状としては、咳、嘔吐、頭痛、目の発赤と言ったものが多々報告されている」
アイの言葉に、私は頷いた。そして原因物質名を言う。
「おそらく、フッ化水素だ」
火山ガスーーつまり硫化水素が排水に接触し、熱硫酸となる。そして排水中のフッ素と反応し、フッ化水素が発生。風の国に流れているのだ。
「フッ化水素は吸引すると、咳、めまい、頭痛、吐き気、咽頭痛などの症状が現われる。目に入れば充血したりな」
また、体内のカルシウムイオンと結合してフッ化カルシウムを生じさせるから、骨を侵し、高濃度の場合は低カルシウム血症を引き起こす場合もある。
「フッ化水素以外の可能性は?」
アルカナによるテローーつまり未知の物質による可能性はないのかと、アイが問う。
私は借りたガスマスクと共に、お土産屋で買ったガラス細工のストラップを見せた。
先端に付いていた星形の細工は、角が全て溶けている。
「フッ化水素は、ガラスを腐食するんだ」
伏線として、ガラス細工のストラップはルカによるスリ(嘘)に合った時に見ていた物です。