交錯編-なんだって?
転移先は水の国の首都源泉の街だ。
ナギが此処に来たのは2時間前。既に移動しているだろう。
風と土の国それぞれに滞在した事がある俺は、自由に行き来出来る。さてどちらに行くか、と悩んでいた時、一人の職員がやってきた。
「ナギ様なら、まだ水の国にいると思います」
「なんだって?」
確かな情報か?と尋ねる俺に、職員は「おそらく…」と少し自信なのないように答えた。
「水の国版るぶぶを持っていましたから…」
「……」
俺、風見そして日向が閉口し、お互いに顔を見合わせた。その時、みんな声は発しなかったが
ーーー流石に、このタイミングで観光はないでしょ
ーーー仕事を終えた後の楽しみ、って感じじゃないか?
ーーーいや、ナギの事だ。仕事する前に栄養補給してから、と言う可能性もある。
そんな俺達の様子に、職員はアセアセとした様子で補足した。
「あと、風と土の国の情勢とか、水の国で何か影響はあったか?みたいな事は尋ねられたので、やはり開戦関係でいらしたのは確かだと思います…!」
「…そうか、ありがとう」
俺は職員に礼を言うと、二人に振り返って
「俺達は風の国に行こうーーーアイに接触しておいた方がいい」
ナギがアイを巻き込むかは分からない。だがアイが重要な人物である事に変わりはない。
先に押さえておくのは、悪手ではない筈だ。
アイとヒナタに連絡を入れると、俺達は早々に天候の村へと転移した。
初めて訪れた風見達は、村を取り囲む柵に顔を引き攣らせる。
「随分と田舎ね」
「悪かったな」
風見の呟きを拾ったのは、運が悪い事にちょうどやってきたアイであり、隣にいたヒナタも顔を顰めていた。
風見はバツの悪い表情を浮かべる。
俺は別に助け舟を出すつもりはないが、軽く咳払いをすると一歩前に出た。
「事前に連絡した事なんだがーーーナギがこちらの世界に来ている」
「土の国の宣戦布告の件でか?以前はアルカナが裏にいたからナギも関与してきたけど、何故今回も?」
ナギが半年かけて結んだ同盟は対アルカナについてだ。今回の件は無関係の筈。
「それに、」とヒナタは追加するように言った。
「今のナギは何の肩書きも持っていないのだろう?」
どんなに能力が高かろうが、所詮ナギは一般人だ。しかも異世界の存在であり“火炎軍の少佐”や“アルカナ幹部”と言う身分がなければ、こちらの世界にとってはたんなる“旅行者”程度の扱いとなる。
二人の言葉に、俺たちは何とも言えぬ表情を浮かべた。そして言い難い情報を伝えたのだった。