交錯編-まずは向こうに行ってからだ
そりゃ、リヒトシュタールは幾らでも欲しい。しかし戦争を仕掛けてまで欲する程、アルカナは落ちぶれてはいない。
何故なら本来、アルカナは天然資源より人財資源を重視し、戦争で生まれる利益より、人が生きる為に必要な需要、つまり持続的利益を優先するからだ。故に、人工能力者については批判的でもミランダのような優秀な存在が外部からやってきたり、フルメンのように別組織から支援者がやってくる。勿論、技術目当てな人材は中立派だ。
「本当はすぐにでも例の場所に行きたいんだが…」
チラッと私はヒナタから受け取った巻物を見る。そして首を横に振った。
「下調べが出来ていないし、時期尚早だ…。今じゃない」
それに不明瞭な事がある。例えばーーー
「吊るされ人の正体…」
代々、神奥にいたアルカナ幹部は“隠者”を名乗っていた。
それが今回、わざわざ“吊るされ人”を名乗っている。
そしてタロットの吊るされ人はーーー私は溜息を吐く。
「2匹の蛇と杖も気になるし…一度、向かってみるか」
勿論、それはスクロールの示す場所ではなく
「今ならまだ入れるはずーーあちらの世界に」
現在、ナギは住所不定、無職の身である。ただし協力者のお陰で、城などの重要な建物に今まで通り自由に出入りが可能らしい。
だが、少しは人の目を憚って、流石にこれは使わないだろう…と言う物があった。異世界転移装置である。
ナギが使用したとの知らせが届き、俺は急いで行き先を調べた。
「水の国…?」
と、転移先の履歴を見て風見は首を傾げる。
「水の国に、今更何の用かしら?」
「おそらく本当の目的地は水ではなく、風か土の国だろう。開戦宣言した国には直接行けない様になっているから」
日向の回答に俺も同意する。
「水の国から列車で向かう気だろうな。以前もそうだったし」
たしか以前はアテナ様にちょっかいをかけられたと嘆いていたっけ。今回は流石に出てこないだろう。
「まずは向こうに行ってからだ」
そして俺達もまた、転移した。