交錯編-違います
ルカが「卑怯者」と叫んだ理由です。
ナギを見失い、すぐに俺のもとに齎された物はーーーとても厄介な案件だった。
「廃棄物の撤去及び処分!?」と俺。
「村人の健康被害の調査…」と風見。
「治療費と慰謝料の請求」
そして日向が呟いた。うわぁと嘆きたくなる事案が俺たちの身に降り掛かる。
疾風の国から送られてきた書類を、俺達は鵠沼総帥に突き付けた。ら、
「お前達が藪を突ついた結果だろう?」
と一蹴され、俺達はヒィヒィ言いながら処理に追われた。
…ある意味、ナギの事を考える暇がなかったのが、救いだったかもしれない。そうこうしている内に、ナギを見失ったあの日から7日が過ぎた時だった。
鵠沼総帥からの呼び出しである。
部屋に入ってきた俺に、鵠沼は早々に本題を切り出した。
「これからどうするつもりだ?」
「…追い掛けます」
ここに来るまでの間、ずっと考え、悩みそして決めた言葉を告げる。
俺は決意を込めた眼を鵠沼に向けた。
「あいつはまだ、俺の問いに答えていない」
俺の言葉に、鵠沼総帥はふー…と溜息に近い息を吐いた。
「…とある者の報告では、キッパリ言われたとあったが?」
「とある者、が誰なのか凄く気になりますが…”あれ“があいつの本心だとは思わない」
「認めたくない、と言う気持ちは分からなくもないが…」
「違います」
鵠沼総帥の言葉を俺はキッパリ否定する。
俺は拳を握り、目を閉じた。あの時に感じた違和感。そして吐き出した言葉の意味を思い出す。
再び目を開くと、真っ直ぐに鵠沼総帥に向けて言ったのだった。
「“宣誓しなかった”。この意味を俺は問い詰めたい。もし本当に俺の事を好きじゃないのなら、あの時宣誓するべきだった」
俺は言葉を続ける。
「もしーーー好意をもつフリをして俺に近付き、自分を惚れさせて最後に捨てると言うのが目的だったのなら、あの時宣誓して俺を振るのが一番効果的な筈だ」
「…曖昧な態度を取って、お前を振り回すのが目的な可能性は?」
「それだと、俺が途中で放棄したら成り立たない。追い掛けてくれる“かも”と言う不安定な計画を立てる筈がない」
「…かなりのメンタリストかも知れんぞ?」
「そこまであいつは器用じゃないのは、鵠沼総帥の方がご存知では?」
「……」
俺の言葉に押し黙る鵠沼総帥。暫く思案し、次いで俺を見た。
「…決意は変わらないのだな?」
「はい」
俺の答えに頷くと、鵠沼総帥は「分かった」と言って、俺に退室するように告げた。
ルカが去った後、私はひっそりと呟く。
「最後まで、お前の望み通りになってくれる事を祈るよーーー吊るされ人」
次回は小噺になります。