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解説:随分と、回りくどい事をしたな


 薄暗い空に渦巻く旋風。それは遠目からでも分かる程の威力である。

高温のマグマは押し戻される様に、流れの軌道を大幅に変えていた。


「アイのオリジナルが、ここまでの威力を持つとは」


私は感嘆の声を上げる。満足そうな表情を浮かべる私とは裏腹に、無表情な隣に声をかけた。


「出番はなさそうだーー紫」


「……」


いつもお前は無表情だなー、と私は紫の頭を撫でた。


水流の街で会ってから2ヶ月を過ぎている。未だにこやつの表情が崩れた事はない。

私が手を放すと、紫は暗い目で見上げてきた。


「…危険な所に行かなくていいの?」


「あぁ、火口付近に行く必要がなくなった。ルカが戻ってきたら、一緒に帰っていいぞ」


紫を連れてきたのは、万が一の保険だった。

ミネルバの梟で保護してから1ヶ月経った頃の事。当初、水の魔法使いだと思われていた紫だが、検査してみると実は違った。

分子運動を低下させる能力だったのだ。


もっと分かりやすく説明すると、物質の三態の内、固体に近付ける能力。

水蒸気を水に、水を氷に。ただし、この逆は行えない。


水流の街で作った氷の橋だが、おそらく村崎が水を浮かせ、それを紫が固めたのだろう。


「火砕流中の物質を一部でも固体にすれば、その分、威力は落ちる」


紫はまだ幼いし、魔力量はそこまで多くない。高速で流れるマグマを全て固体にするのは不可能だ。

だが、マグマに含まれる一部の水蒸気を、水や氷に変換する事ぐらいはできる。すぐに周囲の熱が元の状態に戻すだろうが。

しかし状態を戻すのに、僅かだがエネルギーは消費されるのだ。


事前に調べておいたアイの実力から、おそらく押し切れると思っていた。誤差があったとしても、紫の補助で充分だと。


「オリジナルの威力がここまでとは。計算をミスったなぁ」


オリジナルは通常の魔法と比べて桁違い。それは分かっていたのだが、ここまで予想を超えてくるとは。


「そう」と呟き、再び視線を落とす紫。

私は自己流詠唱の事は失言だったか、と慌てた。すまない、と言って紫を抱きしめたい衝動にかられる。

ーー村崎と出逢うまで、この子も危険地帯にいた。


ミネルバの梟の事は聞いている筈だ。だから、私たちがアルカナみたいな非道な事はしないと、分かっている筈。

それでもまだ信用はされていないのだろう。どう取り繕えばいい!?と焦っていた時だった。


「ナギ」


不意に、後ろから声をかけられる。振り返ると、ルカがいた。


「お前の予想通りだったぞ」


私の内心など知らないルカは、淡々とそう言ってガスマスクと、ある物を返してきた。そして火山の方を見る。


「凄いな、あれが風神の姫君か」


風神の姫君ーーそれはアイの二つ名だ。

アイは高位の風使い。おそらく、風の魔法だけなら風見を遥かに凌ぐだろう。


「随分と、回りくどい事をしたな」


俺なんか、スリなんてさせられて。

そう愚痴るルカに、私は「ちゃんと謝恩はしただろ」と言い返す。


「同じ宿を取っただけじゃ、関わりが薄そうだと思ったんだよ。結果的に、向こうから声をかけてきたし」


ルカは呆れたように首を振った。お前だけは敵に回したくない、と。


私は「アイの奴、気付いたかな?」と少し心配になった。ルカは大丈夫だろ、と無責任に言う。


「お前がわざと『高位の風使いなら』って言った事だろう?」


ルカもあの時、私とアイの会話を聴いていた。

そしてルカの言う通り、私はわざと宣言したのだ。


アイに対処させる為ーー正しくは、アイのオリジナルを確認する為に。

次回も解説

アイの調査している健康被害についての解説です。

今回、解説回が3回あります。お付き合いしていただけたら嬉しいです。

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