過去編:贖罪になるなんて思わないけど-解説
風見を上手く巻いた私は、山頂付近にいた。手にはアルカナ謹製の小型プラスチック爆弾をいくつか持っており、一つずつ丁寧に設置していく。
「準備完了!後は予報通りに雨が降ればオーケー」
あとは何処に小型転移装置を設置するかだなぁ、と一人呟く。
「小型と言っても…重いんだけどね」
背負ったリュックの中は、ズシリと重かった。両手で持てるくらいのサイズ、重量で転移が可能なのはすごい事なのだが、重い事は重い。
「既に一つ麓に設置しておいて正解だった…。こんなのを2つも持って登るとかキツ過ぎる」
あとはこれを何処に設置するかのだが、それは先程目星を付けたので、問題はない。
「風見が追い付く前に設置しなきゃ」
その後、私がサルトゥスの罠に捕まったのは言うまでもない。
先は長くないと知ってはいたが、まさかこのタイミングでとは。
私の指示に風見は訝しむが、何か意図があるのだろうと言及しなかった。そして冷静さを失っているルカくんを誘導するなど、雑作もない。
二人を先に出すと、私は準備を始めた。
遠隔操作で爆破し、土砂崩れを起こす。
「土砂崩れ!?」
と、わざとらしく取り乱した。
この後の予定では、サルトゥスを外へと連れ出し、途中で放り出す。そして隠してある転移装置まで行き、安全圏まで移動する心算だ。
緊急避難と言えば、私が罪に問われる事はない。
だと言うのに
「これが、君への贖罪になるなんて思わないけど」
ーー生きてくれ
巫山戯るなよ。頼むから、私に罪悪感を植え付けないでくれ。
そう叫びそうになって私は自制する。
これは復讐なのだ。どんな内容であれ、私がサルトゥスに懇願する事は許されない。
「これは、復讐したと見做していいのか微妙よね」
「……」
安全地帯に飛ばされ、泥塗れの私にアテナ様が傍に現れる。周囲の暴風雨が遮断され、アテナは優雅に宙に浮いた状態で私を見下ろした。
にっこりと私に向かって艶笑を浮かべる。
「サルトゥスが死んでなければ、やり直す事が出来たのにね」
「……」
アテナ様の言葉によって、サルトゥスの生死が確定する。彼は亡くなった。私の計画通りに。
だと言うのに
「スッキリしないわねぇ。まるでミランダの時みたい」
「……」
つい感情の篭った目を向けてしまうが、アテナ様はその様子を寧ろ楽しんでいた。クスクスと嗤い、わざとらしく首を傾げる。
「息子はどうするのかしら?」
「私が何と答えるか知っているでしょうに」
「そうねぇ」と意味深な表情を浮かべたアテナ様。
ふわっと腰掛ける様な体勢をとり、脚を組んだ。
「これは貴女が綴る復讐劇。復讐対象の定義を決めるのも貴女だしね」
「…何が言いたいのですか」
私はアテナ様の意図が読めず、真っ直ぐに見つめて問うた。アテナ様は浮かべていた笑みを一瞬で消し
「現在を以って、復讐対象の定義の変更を禁止する」
「!!」
それがどんな意味を持つのか、当時の私は分からなかった。