交錯編-生きた心地がしなかった…
ーーーアスクレピオスの領域
何故ここで、アスクレピオスなんて名前が出てくる?
ソルによって入れ替わった先と、ルカによる転移先との傷の進行度合いは目に見えて違った。あの差はなんだ?
「まったく…アテナ様もお人が悪い」
溜息を吐きーーー音もなく現れた人物に私は艶笑を向けた。
「手伝って貰っている身としては、ありがたいが…人の能力を使えるなんて反則じゃないか?」
「下位の者達の能力は全て真理の下にある。俺にとって、下にある物が使えない筈がないだろ」
真理と同等の者は太々しく言ったのだった。
ヒナタは不機嫌ながらも、ポイっとベッドに巻物を放った。
「デバイスだとハッキングのおそれがあるから、それに記載しておいたーーー二度とあんな所には行かないからな」
思い出されるのは、つい先ほどまでいた領域だ。
「生きた心地がしなかった…」
「それは悪かった」
私は本当に悪いと思った。しかし私では無理なのだ。あの領域は私には危険過ぎる。
事情を少しばかり知っているヒナタは微妙な表情を浮かべたが、私は気にせずに、寧ろ気になっている事を尋ねた。
「なぁヒナタ。私から例の上位存在以外の気配がするか?」
「はあ?ーーー!」
私の疑問にまの抜けた表情を浮かべ、次いで驚愕した。
その様子に私は察する。
「もしかして××××の気配?」
「直接会った事はないが…おそらくな。例の気配が強過ぎて気づかなかった」
「アテナ様の加護が掛かっているから、余計になーーーまったく、アテナ様はちょっかいを掛けた側か」
私は自嘲する。
その“ちょっかい”によって、私は生かされたのだ。
「Aの事は知っていたが…まさか三柱目がいたとはな」
呟きながら、私はルカの事を考える。
ルカは気付くだろうか?
杖と蛇の象徴ーーーアスクレピオスがミスリードだと言う事に。