交錯編-聞いたぜ、お前、
この能力を知っている。
何度やられた事か。まるで俺から奪うように行使されるこの能力と保持者が恨めしい。
現れたメモには、アルファベットに一文字が書いてあった。
「あら…?これって」
「アテナ様から貰った地図で言うと、この場所の事だな」
俺の持つメモを覗き込み、二人は首を傾げる。
そう、俺たちが退避場所として選んだのは地図に描かれていた“A”のエリアだ。
敵の領地かもしれないと疑ってはいたが、すぐにフェアリーリングが繋がり易く、深奥の村からもそこそこ近いなど色々な点を考慮して苦渋の思いで選んだ。
「何故このタイミングで、この記号なんだ…?」
ここがアスクレピオスの領域だと言って、何になる?意図が読めず、俺は何処か引っ掛かりーーハッとする。
「A…?」
次の瞬間、今までの情報がフラッシュバックして、繋がっていく。
「二柱じゃない…」
この深奥にいるのは、三柱だ。
気がつくと、そこは深奥で私が使っている客間だった。
痛みは和らいでおり、傷口は塞がっているようだ。だが起き上がると流石に胸に痛みが走った。
しかしその痛みが、生きていると実感させてくれる。
ーーーよかった。まだ、大丈夫
此処は中立な領域だ。故に、アテナ様の力も届く。
ホッと安堵したら、不意にノックされた。
「気が付いたか、アリエル」
「私をその名で呼ぶな」
入ってきたソルに私は睨む。ソルは酷いなぁ、とわざとらしく首を竦めると、勝手にそばの椅子に背凭れに頬杖をつくように腰掛けた。
「此処に運んでやったのに、その態度はないだろ。それに、お前が俺を呼ばなければ村長達があんな目に遭う事もなかったんだぜ」
ソルの言葉に、私はーー憐れむような眼差しを向けた。
「責任は私にあるって言いたいのか?なら筋違いだし、それが分からないほどお前は馬鹿だったのか…?」
「……。」
こんな風に喧嘩を吹っかけてくる相手には、喧嘩腰の買い言葉より、ゆっくりとした口調で、諭すように、可哀想と言いたげな表情を向けるに限る。同じ土俵に立たないで済みつつ、皮肉を言うのがポイントだ。
案の定、乗ってこなかった事と小馬鹿にされた事にソルは苛立ちーーー次の瞬間、鼻で笑った。
「聞いたぜ、お前、賢者の石にされるんだってな?」
「!!」
ようやく表情を変えた私に、ソルは意地の悪い笑みを浮かべた。
「必死にここまでやって来たのに、残念だったな」
そう言い残すと、ソルは不敵な笑みを残して部屋を出た。
残された私はしばらく目を閉じ、顔を伏せて思案する。
思い起こすのは、途切れ途切れの意識の中で聞いた、ルカの言葉。