交錯編-な、、んで
俺の腕の中にいるナギが、今まで聞いたこともないような弱々しい声を出す。腕を緩めナギの顔を見ると、俺は驚愕した。
ナギの顔色は蒼白で、血の気が失せていたのだ。
頬に触れると冷たくて、明らかに体温が下がっているのが分かる。
そしてーーー血の匂い。
俺たちの様子がおかしいと察したのか、訝しげに風見と日向も近づいて来ると、ナギの様子に目を見開いた。
「あんた、まさか胸に攻撃でも受けたの!?」
胸?と風見の言葉に、俺はナギの心臓あたりを見ると、分かりにくいが確かに服から血が滲んでいた。
俺は嫌な予感がしてーーーナギに一言断る余裕すらなくーーー裾を捲る。
いきなりの行動に風見は一瞬顔を顰めるが、俺の必死な形相とナギの状況から咎めはせず、晒されたナギの胸元を見るとーーー既に塞がったいた古傷が、半分ほど開いていた。
「なぜ…」
これはナギが村長によって付けられた傷だ。アテナの力によって閉じていた筈。
「まだ復讐は終わっていない筈なのに!何故!?」
フルメンは「ナギの復讐が終わるまでの期間は、保証されている」と言っていたではないか。
ならば何故、今?
「この傷、どんどん拡がっていってない…?」
「!!」
気を使って目を背けていた日向とは別で、同性と言うことで注意深く観察していた風見が口を開いた。その指摘に、俺は再び傷口を見やる。確かに、ゆっくりとだが進行していた。
本日何度目になるだろうか…。俺は「なんで…」と呟く。
額に脂汗が浮き、今にも意識を手放してしまいそうなナギ。
だが必死に俺にしがみつく。
「此、処は、アテナ様の、、力が、よわい」
「!!」
そうだ、先程俺はその考えに行き着いていたではないか。
「アスクレピオスの領域…」
医術の神のくせにナギを治さず、むしろ殺すのか。そう皮肉を言いたくなったが、少しでも早くナギを此処から連れ出さなければと思い、俺は再び魔法を使う。
しかし
「な、、んで」
発動しない。近くにドゥンケルシュタールがある訳でもないのに。
「緑よ」
と、風見も試しに使ってみるがーーー使えない。
まさか…と絶望に近い気持ちが思考を支配した。
「上位存在からの妨害…?」
そう呟いた瞬間ーーー腕の中からナギが消え、代わりに一枚のメモが現れた。