交錯編-全て、仕組まれていた…?
最悪なタイミングでの入れ替わり。視界が突然変わり、誰かと位置が入れ替わったとすぐに理解する。そして
「ご無事で何よりです」
傍に立つソルに、フィルマメントは何とも言えぬ表情を浮かべた。
そしてその様子を、一人のーーールカやソル達にそっくりなーーー男がそっと遠くから見つめていたのだった。
幸運にもソルの能力ーーー取り替えっこは入れ替える対象が人物の場合、付属する物も交換される。
簡単に説明すると、服や時計など身に付けている物も一緒に入れ替わってくれるのだ。ーーー蛇足だが、どれくらいの範囲が“身に付けている”と判断されるのかは、ソル自身実はよく分かっていなかったりする。
故にフィルマメントを拘束していても、入れ替わった人物ーーーナギは拘束されておらず、直接触れていたはずなのに何故か入れ替わっていない椅子に座った状態で、敵の大将ウンブリエルと対峙していた。
ナギは悲痛な表情を浮かべる。
「会うのは初めてだな。たしか大地の国のウンブリエル少将」
「よくご存知で。流石、火炎軍ナギ元少佐」
元を強調して言うウンブリエルに「嫌みか」とナギはひと睨みするが、埒があかないなと冷静になる。空気が悪いなと、こほんっと咳払いして苛立ちを抑えつつ脚を組んだ。
「残念だったな。村長を人質に賢者の石を強請ろうとしたんだろうが、現在はただの一般人の、何の交渉材料にもならない私と入れ替わってしまって」
火炎軍だけではない。アルカナからも離れている今の身では、何の価値もない。と言い切るナギに、ウンブリエルは僅かに目を見開きーーー笑みを深めた。
「お前はーーー当の本人は、ご自身の価値を知らないらしいな」
「なんだと…?」
意味深な言葉にナギは眉を顰める。その様子にウンブリエルは意地の悪い笑みをナギの顔に近付けて言ったのだった。
「お前が賢者の石なんだよ」
ウンブリエルの言葉に、目を見開くナギ。余裕ぶっていた表情が驚愕の表情へと変わり、今までの情報が脳裏を駆け巡る。
そして絶望に近い、絶句した表情で「まさか…」と呟いたのだった。冷や汗がぽたりと床に落ちる。
「全て、仕組まれていた…?」
「流石だなーーーまぁ、その賢さが不幸を呼び込んだ訳だが」
クツクツと笑うウンブリエルにナギは睨んだ。
「これから私をどうするつもりだ?おそらく、私はまだ賢者の石としては未完成だぞ」
「それは追々だな。本当ならフィルマメントに方法を吐かせるか、手に入れたかったが…一番重要なお前が手に入ったんだ。また機会を作るさ」
優越感に浸るウンブリエルに、
「そんな時間があると思っているのか?」
自身の違和感の正体に気付いたナギは、そう呟いた。
その瞬間、ドアが蹴破られ
「なんでお前がいるんだよ」
驚き半分、怒り半分の感情が混ざった声で、ルカ達が現れたのである。
ルカの能力:妖精の輪
ソルの能力:取り替えっこ
この作品で能力に名前が付いてるのは、実はこの二人だけだったり笑