☆高位の風使いなら、可能か
私が宿を出ようとした時、ちょうどアイが帰ってきた。
「もしかして火口付近に行ったか?」
アイから独特の匂いがする。私の問いに、アイは頷いた。
「少し相談したい事があるんだが、時間を貰えるか?」
「相談?」
端的に聞くと、私は少し考えて「ちょっと考えがある」と答えた。
「出掛けるついでに、少し調べてくる」
「すまない」
そして念の為と、連絡先を交換し、ガスマスクを借りた。火口付近に行くのか?と聞かれ、私は首を横に振る。
「むしろ逆方面だ」
そして私は宿を後にしたのだった。
陽が傾き風が涼しくなって来た頃、アイは温泉街に出ていた。店先にはランタンが掲げられており、橙色の淡い灯りが等間隔に光っている。
お祭りの雰囲気にどこか似た美しい情景に、アイは出てきて良かったと満足した。
と、その時だ。電話が鳴った。
表示を見るとナギからである。急いで出ると、
『マズい!!今すぐ避難しろ!!』
と、同時にドーン!!と言う音がした。電話の向こう側からではない。
今朝見に行った火口付近、そこから煙が吹き出していた。
「まさか!?」
火山が噴火したのか。確かにあの火山は思っていたよりも活発だったが、そんな様子は感じられなかった。
『アイ、今どこにいる!?』
ナギの声が聞こえる。アイは「温泉街だ」と答えると、ナギは早口で状況を説明した。
『火砕流はまだ起きてないようだが、有毒ガスと火山灰が街中に広がる筈だ!』
火山灰は、時に数十kmから数百km以上運ばれる。広域に降下・堆積し、農作物の被害はもちろん、交通麻痺など社会生活に深刻な影響を与えるのだ。
また火山ガスには、マグマに溶けている水蒸気や二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素などの様々な有害成分が含まれている。
『高位の風使いなら、この規模の火山ガスとかは吹き飛ばせるし、火砕流が起きても急冷出来る。だが呼んでくる時間はない!今のうちに避難しろ』
自国ならまだしも、他国に今すぐ高位魔法使いを呼ぶのは難しいと言うより、不可能だ。
そうナギが叫ぶのと同時に、再度噴火する。そして
「まさか…」
アイがいる場所からも、はっきり見えた。
真っ赤なマグマが街に向かって流れてくる様が。
アイは堪らず「一度切るぞ!」と言うと、ナギが何か言う前に電話を切った。そして火山に向かって駆け出す。
「高位の風使いなら、可能か」
そう呟くと、アイは人混みをかけ分けるのが面倒臭くなり、風を使って空を飛んだ。
そして詠うーーオリジナルを使ったのだった。
※ファンタジーだから許される荒技です。
19時に解説回を更新します。