交錯編-まるで織物のようにね
その瞳が急激に冷たくなり、次いで苦々しくフィルマメントを睨む。
「お前は因習に則る事をこだわった、と思っていたが違ったんだな」
「……」
「本当は殺す気なんてなかったーーー正しくは外界に出す事を拒んだんだ」
初めは慣習に則って、追放しようと思ったのだろう。だがおそらく、上位存在による助言と言う名の介入によって賢者の石にする事になったのだ。
ナギを殺そうとした所からアテナの眷属になるまで、あれは仕組まれた。
一種の観劇。
ウンブリエルの言葉にフィルマメントは無言を突き通し、それを肯定と思ったのか、ウンブリエルは言葉を続けた。
「ただ分からないのは、何故アテナは賢者の石の原石を火炎に…フルメンに預けたのか、だ」
だってそうだろう?とわざとらしく首を傾げてのたまった。
「フルメンはあいつやミランダと同じ、追放される為に育てられた者なのだから」
つい最近、二人の預かり知らぬ所で、とある人物が言った。
ーーー嘘だろ?あんたが深奥出身だってこっちは知ってるんだぞ
ーーー白々しい、私を無知だと罵るつもりか?
因果は交錯する。それは絡まり合い、時に意図しない素晴らしい作品を作り出す。
「まるで織物のようにね」
そう呟く女神の下には、一人の女性が苦々しそうな顔で機を織っていた。
ウンブリエルの言葉にフィルマメントは睨んだ。
だが何も言わないフィルマメントに、ウンブリエルは言葉を続ける。
「賢者の石になる条件が、知恵の女神の眷属になるのは…まぁ分かる。アテナに認められるくらい知力が高いと言うことだからな。だが何故、深奥から離した?」
「…かわいい子には旅をさせよ、と言う事ではないか?」
フィルマメントの苦し紛れの回答に、ウンブリエルはハッと一笑する。
「賢者の石にするつもりなのにか?」
「…経験は何事にも変え難い財産であり、研磨剤だ。人は人でしか磨かれない」
フィルマメントは静かに宣った。
「井の中の蛙が、賢者になれるはずが無い」
言い切るフィルマメントにウンブリエルは「ほぅ」と僅かに目を見張った。そしてニヤリと笑う。
「なら、それを取られたとなれば相当な制裁を受けるんだろうな」
「!!」
ウンブリエルの意味深な言葉にフィルマメントは驚愕し、
「何をーーー!」
と言う抗議の声を掻き消す様に、
「うわぁ…このタイミングでかよ」
フィルマメントと入れ替わるように現れたナギに、ウンブリエルはニタリと薄気味悪い笑みを浮かべたのだった。