交錯編-おい、出ろ
此処に連れてこられてからどれくらい経っただろう。武器や通信器は全て没収され、声を出そうとすれば見張りに睨まれる。
キョンシーの厄介な所は、噛まれた者もキョンシーになる点だ。それを知っているが故に、俺達は誰も抵抗出来なかった。
が、此処で強制的に状況が一変する。
「おい、出ろ」
と、再びリーダー格の男が現れ、村長だけを連れ出したのだ。グルルルゥっと言う唸り声が聞こえてきそうな視線を向ける風見に、俺と日向は無言を貫き通し、男はそんな俺たちを鼻で笑うとさっさとその場からいなくなった。
その瞬間、俺は見張りに飛びかかる。
「ルカ!?」
と焦る風見を無視して、俺は陥没した顔面に手を伸ばした。噛みつかれる!と目を見開く二人に、俺は押し潰された札を引き抜く。
「思った通り…」
emethと血で書かれた羊皮紙。呪符を奪い返そうとする泥人形の攻撃を避けつつ俺は指を少し噛んで血を出すと、先頭のeを塗り潰した。
methーーー"死"と言う意味だ。
崩れた泥人形に、風見と日向は恐る恐る近寄った。
「よく分かったな…」
「この生臭いと言うのか…腐った匂いは死臭じゃないの?」
鼻を押さえる二人に、俺は「堆肥だ」と答えた。
「作り方によって匂いがしない物もあるみたいだが…昔使っていた物と同じ匂いだったからな」
「そう言えば、サルトゥスと家庭菜園をやってたわね」
昔取った杵柄とはこの事だ。俺は土で汚れた袖を叩きながら、そばにあったランプに近付き羊皮紙をまじまじと見る。そこには単純な命令しか書いておらず、安堵した。
各自拘束が解けると、風見は指の骨を鳴らしながら不気味な笑みを浮かべたのだった。
「さぁ、反撃開始よ」
いや、その前に村長の救出が優先なんだが…。
と言う俺と日向の突っ込みは無視された。
連れて行かれたのは、さっきの建物だった。
通された部屋は砂埃が酷く一瞬顔を顰めたが、連れてきた者は問答無用で、椅子に無理矢理座らせられた。そして
「やはりお前だったか、ウンブリー」
「久しぶりだな、フィルマー」
姿を現したのは、予想していた人物。村長ーーーフィルマメントは悪態を吐いた。
「賢者の石を知っている時点でお前じゃないかと思っていたが…」
「他の連中みたいに、黙っていると思ったのか?」
ククッと笑うウンブリーと呼ばれた人物、ウンブリエル。
「聞いたよ、賢者の石について。まさか人だったとはな」
ずっと隠されていた情報が手に入り、ウンブリエルは笑みを浮かべたーーーそして
「やはり、あの時に手に入れておけば良かった」