交錯編-まさかソレ
だがそれをしないのは、ひとえに村長の事があるからだ。
風見や日向はいい。俺と同様、隙さえあれば自力で切り抜けられる筈だ。
しかし村長は分からない。
第一に、村長が能力者なのかも分からないのだ。俺たちと違い、魔力を封じられていないからただの一般人か…?もしくはナギの様な攻撃性がないタイプなのかもしれない。
と、うだうだ考えていたら、遂に目的地に着いてしまい、連れてこらてた場所は、この間の施設の敷地よりも狭く、建物も遥かに古くて小さかった。
この時、初めて村長は表情を変えた。小さく目を見開き、呟く。
「これは…非常にまずい」
その言葉に俺は訝しみ、村長の視線の先を追うと、そこには扉に二匹の蛇が絡み付いた杖が彫られていた。
「アスクレピオスの杖…?」
確か医術の象徴だった筈だ。賢者の石は人を不老不死にするとされている為、特に違和感はないのだが…と内心で俺は首を傾げた。
非常にまずい意味を、俺たちは後に目の当たりにする。
建物には入らず、そのまま玄関を横切る。周囲を見回す俺に「大人しくしろ」と銃器で脅されたが、好奇心に勝てず、俺は小声で村長に聞いたのだった。
「ここは…金精製の施設を作る前に使っていた場所か?」
「あぁ、私の先々代よりも前に破棄され、資料や器具は持ち出したと聞いていたが…これは」
大量の土が外のヤードに置かれている。これは金の採掘中に出た物だろうか?まさか、ここにも大量の硫化水銀が…?
先頭を進むリーダー格の男は、そのまま敷地の奥まで行く。そして
「逃げられると思うなよ」
と、洞窟を利用して造られた牢屋の様な場所に押し込められた。陽の光が当たらず、ランプの光だけが周囲を照らしている。
そして両端にぞんざいに置かれていた人型の何かに、埋め込む様に札の様な物を顔面に押し付けると、人型のソレはゆっくりと立ち上がった。不快な匂いに、風見は思い当たる物の名を呟く。
「まさかソレ、キョンシー!?」
風見の言葉に、敵がニヤリと笑ったのが分かった。立ち上がった人型の顔は潰されているのか、薄暗い室内ではよくわからないが、キョンシー特有の腕を前に突き出したポーズは分かった。
「…?」
しかし俺は風見の言葉に違和感を覚え、眉を顰め、そしてーーー俺は口を閉じたのだった。