交錯編-なんでそこまでこだわるか…
ルカ達を案内した後、俺は別室で控えていた。
聞こえてくる話に、俺は辟易する。
「なんでそこまでこだわるか…」
生きているのだから良いじゃないか。
お前はこの因習から解放されているのだから、これ以上首をくっ込んでくるなよ。
と、悪態をついた時、ちょうどアイツから連絡がくる。
俺はニヤリと笑うと、立ち上がったのだった。
ソルの気配が消えた事に、いち早く気付いたのは風見だった。隣で聞き耳を立てていた奴がいなくなった。
つまり、何かあったのだ。
眉を顰める風見に、ルカは気付かず静かに言った。
「ミランダへの報復は知っている。事故…アルカナ派のせいだと見せかけて殺したと言う事はな」
「そう、あいつは執念深くーーー見逃さない」
村長の目が鋭く光る。
「サルトゥスだけ偶然で済むと思うか?」
「……」
グッと拳を握る。今すぐナギに問い詰めたい。
父さんはお前が殺したのか?もしそうなら、どうやって?
そして、一番聞きたい質問がーーー
とその時、地響きが起きた。
揺れが収まったのと同時に、窓が外側から割られ、俺たちは囲まれた。咄嗟の事で反撃出来なかった俺は、それでも装備の様子から相手が何処の組織か見破った。
「お前ら、大地の国の…」
全身黒の戦闘服に、顔にはガスマスクと防護メガネ。一見分からないが、構えている銃器がーーーつい先日、あの施設から没収した物と同じだった。
俺の言葉に、敵の一人がカチッと銃器の安全装置を外す。余分な事を言うな、と言う無言の圧力だ。
俺は憎々しげに口を噤むと、チラッと風見達を見やった。至近距離に構えられた銃器に、流石の風見もお手上げで大人しく両手を上げている。
嵌められたか…!!と次いで村長を睨めば、驚く事に村長にも銃器が向けられていた。
ーーー罠ではない?
と内心で訝しむと、村長は口を開いた。
「…いきなりなんだ」
村長の冷静な口調での問い掛け。その目は虫ケラを見る様で、そんな態度を取って大丈夫か?と心配になってしまう。
チラッと壁を見る村長に、相手はくくっと笑った。
「隣には誰もいないぞ?逃げられてら堪らないからな。ソレイルが席を外したのを見計らって爆破した」
チッと悪態をつき「ソルめ」と呟く。
風見は風見で「なら、別の用事でいなくなったのかしら…」と呟いたので、ソルがいなくなったのに気づかなかったのは俺だけか、と少し落ち込んだ。
が、それ以上に衝撃を受けた事がある。
ーーー爆破だと?
あの地響きは爆発の影響だったと言う事か。だが問題は、何処を爆破したかだ。
嫌な予感がする。
しかし俺は内心ではそれほど焦っていなかった。
ーーー不幸中の幸いは、深奥にナギがいない事だな。
先程、ソルがナギは外にいると言っていた。
ナギを足手纏いとは思わない。寧ろ心強いと思う。
だがそれ以上に、安全な所にいて欲しいと思うのだ。
頭の後ろで手を組まされた俺達に、リーダー格の男は言う。
「賢者の石は何処にある?」
敵の言葉に、俺は息を呑んだ。賢者の石だと?今までに一度も出て来ていない情報だ。
フルメン達は知っているのか…?いや、知らない可能性の方が高い。
もしここに賢者の石なんて物があったら、放って置くはずがないのだから。
俺はチラッと二人を見ると、二人とも驚く表情を浮かべていた。幹部の日向が知らないと言う事は、アルカナは関係ないのか?
逡巡する俺を尻目に、村長はゆっくりと口を開いた。
「お前達は、賢者の石が本当に物質だと思うのか?」
「なんだと…?」
訝しげむ敵に、村長は言い切ったのである。
「賢者の石とは賢者の遺志、古き尊き伝統に則った存在だ」