交錯編-来たか
村の中をソルに連れられて歩く。村人は思ったより多く、そして奇異な視線を向けられた。
心地良いとは真逆の感情を抱きつつ、おくびにも出さずに俺たちはある建物に通される。
ズンズンと進み、客間と思われる一室に入ると、そこには一人の老人がいた。
「来たか」
と嗄れた声で、だけど眼光だけは衰えを感じさせない老人。ーーー俺の祖父。
俺は一瞬にして固まった。それはまるで蛇に睨まれた蛙のような緊張。
一筋の冷や汗が流れた。そして
「突っ立ってないで、座るがいい」
と、村長が一声かけた事でハッと我に返る。俺は急いで振り返ると、二人は不思議そうに首を傾げた。
ーーー術を掛けられたわけじゃない
つまり精神的に、あの一瞬だけで俺はマウントを取られたのだ。
事前情報による影響や緊張が原因でもあるだろうが、油断してしまった。気を引き締めなければ、と思う反面ショックを受けて内心落ち込んでしまう。
俺は勧められた椅子へと座ると、一度瞼を閉じ深呼吸した。気を取り直せと言い聞かせ、目を開く。
真剣な眼差しを真っ直ぐに村長に向け、口を開いたのだった。
「ナギはーーーあなた達は何が目的なんだ?」
ナギは“全てに復讐する事”が目的だ。
では何故、その元凶と手を組んでいる?
私は火炎の国にいた。
夜、ようやくホテルにチェックインすると私はベッドに倒れ込んだ。
「つっっっかれたーー!!」
と言って伸びをして、共にベッドに倒れ込んだ荷物を見ると、私は本日の成果に満足した。
ゴソゴソと鞄から取り出したのは、手の平サイズの機械。
随分と小さくなったが、これは転移装置の一つだ。数年前と比べてはるかに小さくなったが、相変わらず重量はそこそこあった。
ソルの能力で行き来するのはあまり合理的ではないし、なにより大人数の転移は困難だ。なのでヒュエトス達を説得して入手したのである。
ちなみに、転移装置の設置は3カ国の許可が必要であり、氷雪と疾風の許可は取得済み。明日、フルメンの元に行く予定になっている。
無事に許可が降りれば、村人達の移動は楽になった筈だ。
「に、しても技術の進歩って早いなぁ」
転移可能距離によって大きさは変わるとは言え、簡易装置は数年前、具体的に言うとルカと初めて会った時はもっと大きかった。
「…あの時はこれの二倍くらい大きさがあったし、重かったなぁ」
持ち上げた際、重さで足が泥濘みに沈んだのを見て、渋々解体し、少しずつ回収したのを覚えている。あの時使用した物よりも高性能で、この大きさとは畏れ入る。
と、同時にぐぅぅぅっと腹が鳴った。
「あぁ…腹減った」
と、ノロノロと体を起こして、コンビニの袋に手を伸ばす。レジ横に置いてあった唐揚げとシャケのおにぎりを取り出して咀嚼した。別に不味い訳でもないのに、目に涙が浮かぶ。
「ルカのご飯が食べたい…」
炊き立ての白米に、揚げたての唐揚げ。ルカは私の好みに合わせて、下味の調味料に生姜を多めに入れてくれる。
「ルカ…」
アルカナから離れて、手料理を食べてない。深奥では食べる気が起きないし、自炊も得意じゃない。ルカと付き合う前は殆どアルカナの社員食堂を利用していた。
食事を終えると、私はシャワーを浴びて再びベッドに倒れ込んだ。目を閉じれば、ルカを初め三人の姿が浮かぶ。
昔の事を思い出した所為なのかーーー鼻の奥がツンッとして、私は腕で目を覆ったのだった。