☆精神的なものでもな
アルカナについて、私は知らなければならない。
そう言ったアイに、私はどこまで話すべきかと考える。そして話す内容を決めると、口を開いた。
「まず、発展の世界とアルカナのつながりは知っているか?」
「アルカナは発展の世界の組織って事ぐらい」
まぁ、一般的に知られているのはそこまでだろうな。
「なら、発展の世界の蔑称も知らないな」
「蔑称?」
首を傾げるアイに、私は頷いた。
「発展の世界はな、自分達の世界を犠牲にして発展し、壊した世界なんだよ」
別名、衰亡の世界。
環境問題や魔術障害を放置し、技術力を上げる事ばかりを行った結果、奴等の世界は人が住める様な場所がなくなった。
別の惑星を転々と移住し、遂に住める星がなくなると今度はパラレルワールド、異世界へと渡ろうとしたのだ。
「ちなみに、火の国や水の国にある異世界転移装置だが、これはアルカナから齎されたものだ」
初めは友好的だった。だが、
「より自分達の技術力の高さを見せつける為、奴等は人工的な魔法使いを作ろうとした」
"した"と過去形なのは、現在、製造は行なっていないからだ。ーーそう、実験は別方向へと転換した。
アイは「別の方向?」と首を傾げた。私は飲み終えた牛乳瓶をゴミ箱に入れる。
「指摘があったんだよ。魔力を持つ者なら必ず持っている物、それを証明出来ていないと」
私の言葉に、アイは目を僅かに見開いた。
「まさか、自己流詠唱?」
「正解」
自己流詠唱ーー通称、オリジナルと言われる物がある。
これは魔力量に関わらず、魔力を持つ者、能力者でも必ず持つ魔法だ。そして、自分自身しか使えないが故か、普通の魔法と比べてその威力は桁違いである。ただし、
「自己流詠唱なんて、殆どの者が使えないぞ」
「そう。自己流詠唱の発現は、極限状態の危険に晒された場合だからな」
自己流詠唱は、魔力により最強自衛システム。
つまり生命の危機に瀕するくらいの事故、事件、災難に遭わなければ発現しないのだ。
「あと、精神的なものでもな」
アイの言葉に、今度は私が頷く。そう、そう。
強烈な精神的苦痛を味わった場合も発現に至る。だから
「アルカナの今の研究は、人工能力者達のオリジナルの発現だ」
「…」
アイは押し黙る。察したのだろう。
私は言葉を続けた。
「アルカナが非難されているのは、非人道的に人工能力者を作ったから、だけではない。
オリジナルの発現の為に、今も非人道的な事をしているからだ」
アルカナの作った魔法使い、能力者の殆どが子供だった。
集めた赤子や幼児に魔力を植え付け、その後オリジナルの発現の為に、様々な実験を行なっていた。
また、戦場や未開拓の地と言った危険な場所に置き去りにし、発現を促したりしている。
「アルカナは3年前に製造をやめた。今は人工魔法使い達の観察期間なんだ」
私は目を伏せた。そして内心で呟く。
ーーさて、アイは気付いただろうか。
私が何故、所々能力を使ったかと言う事に。
アルカナの目的は言ったが、アルカナと言う組織が何故出来たのかを言っていない事に。