交錯編-金の精製ではない
時系列;現在
私は目を伏せた。自分の馬鹿さに嫌気が差す。
「深奥の目的は、金の精製ではない」
それは単なる過程に過ぎない。
「連中は、賢者の石の錬成を行おうとしていた」
それをアルカナが利用して、金の精製へとシフトしたのだ。
そして賢者の石の研究に執着する深奥に見切りを付け、火炎の国へと拠点を移したのである。
私はもう一口、冷めたコーヒーを含んだ。
普段は紅茶なのだが、今は飲む気になれない。
鵠沼に出された紅茶を思い出し、顔を顰めた。
「…賢者の石の錬成に成功したと言われる人物の一人、パラケルススが常備していたと言う薬草メリッサ」
メリッサはハーブの一種だ。鎮静、鎮痙作用や抗うつ、消化促進、ホルモンバランスの調整などの効果効能がある。
そう、万能薬のモデルだ。
「そしてメリッサの別名は、レモンバーム」
鵠沼が私にレモンバームの紅茶を出したのには、意図がある筈。賢者の石と、エリクサー。この二つから導き出される答えは、とても単純だ。
「賢者の石の錬成も、過程の一つ。本当の目的は、不老不死かそれに類する事」
覗き込んだ穴の深さを見誤った。私は悔しくて、吐き捨てるように言ったのだった。
「貴女が見ているのは、深奥でありーーー神奥なのだから」
アテナは不敵な笑みを浮かべ、人知れず呟いた。
次回は小噺です。