交錯編-またかよ…っ!
日向と二手に分かれた後、おそらく風見が通ったと思われる廊下を発見した。
なんでそう思ったか?夥しい血とーーーっと、言葉にするのはここで止めておこう。
取り敢えず、低品質なドゥンケルシュタールがいくつも転がっていた。
そして
「え…?えっ!えぇ!?」
突然背後から大量の水が流れてくる音がして、振り返るとギョッとした。押し流される様に床に倒れていた死体を巻き込んで迫ってきているのだ。
その様子はホラー映画さながらの恐怖を感じさせた。
ーーやばい…っ!
一瞬キャパオーバーした思考を、ハッと急いで引き戻す。俺は焦りながら「フェアリーリングッ」と唱えた。
ーー魔法が発動し難いっ!
おそらく原因は、道中に転がっていたドゥンケルシュタールだ。仕方なく俺は“逃げる”ではなく“避ける”事に徹した。
「間一髪…」
自分を挟む様にワープホールを展開する。
本当は外に繋げて排出したかったのだが、そこまでの余裕がなかった。
襲ってきた水の勢いが消え、完全に通り過ぎるのを確認すると俺は魔法を解除する。そして
「またかよ…っ!」
と、今度は前から先程の濁流が襲ってきたので、俺は悪態を吐いた。近くに転がっていたドゥンケルシュタールを先程の水流が浚ってくれたので、今度は妨害されずに能力を発動する。
今度は建物の外に繋いだ。
そして、
「防火壁…?」
印刷が所々剥がれたマークが描かれた防火壁。閉じられたシャッターが行く手を阻んでいた。と、その時である。
『ルカ、アルカナの研究所と同じ要領で解除出来るぞ』
頭上から聞き覚えのある声がして、俺は目を見開いたのだった。
シャッターを解除すると、風見達が腰まで濡らした状態で現れた。その様子から、先程の水は二人への攻撃だったのだと察する。
「ガスの供給も解除されたみたいだな」
と、日向が安堵した声で言ったので、俺が想像した以上に窮地に陥っていたようだ。その割に風見が上機嫌な気がするのは気のせいだろうか…?
と、それよりも
「お前達はこの後どうする?」
と、俺は真剣な顔で問うた。その真意を解する二人は一瞬黙りーーー
「勿論、私は残るわよ。此処が何の組織なのか分かってないしーー何よりアイツもいるし」
と言う風見。
「間も無く増援が到着するって連絡が来た。円滑に制圧できる様に動くのが幹部の務めだよな」
と、珍しく日向も乗ってきた。
二人の回答に俺は心強さを感じ、決意を宿した眼差しを、防犯カメラに向ける。その先にいる、相手に向けて。
「決まりだな」
さぁ、ナギ。覚悟しろよ?