交錯編-見せつけられたな…
予想通り、風見が派手に暴れ回る。その強引さは、流石全能者と言う感じだ。だが、
「風見…気付いてないのか?」
このままでは追い詰められる!と焦る私は、管理室に向かうーーあぁ、やっぱり似てる。
予想通りの位置にあった部屋の前まで来ると、私は慎重に中を伺った。えぇ、私は慎重派ですよ?何せ攻撃魔法が使えな…くはないけど、得意じゃないので。霰さんに申し訳なさを感じつつ、愛剣を構えた。そして
「遅かったか…」
部屋にいた二名を気絶させ、映るモニターで現在の風見を確認する。此処からの遠隔操作ではもうキャンセル出来ず、シャッター近くの解除ボタンを押さないと開かない筈だ。
日向と共にピンチに陥っている風見。私は心臓が掴まれるような気持ちで、急いでスマホをとりだした。
「ソル、今だっ!!」
そして私は保険ーーーソルに、風見のタガーと指輪を入れ替えさせる。
モニター越しで聞く、風見の声。何処かで私が見ていると確信している言葉。
風見は指輪を嵌めると、防火壁を睨みつけて水を押しやった。
その代わりにーー圧力の関係でーーガスが流れ込む。まずい!と焦る私。
だがそんな私を尻目に、余裕が出来た風見は不敵な笑みを浮かべた。
「空気中の物質は窒素78%、酸素21%、そして二酸化炭素等が1%ーーーそうでしょう?」
「!」
風見が空気中の組成に干渉する。自分たちの周囲だけ、先程口にした物質と濃度調整を行った。
その見事な技量に私は感嘆する。
「すごい…」
記憶を失う前の風見には、出来なかった芸当だ。センスもあるのだろうが、ミネルバから離れていた数年間、相当な修練を積んだ筈である。
私が見ていると確信している風見は、目を爛々と輝かせて笑みを浮かべた。その笑みは「どうよ?」と挑発的で、
「全能者としての格を見せつけられたな…」
と私は呟きつつ、はにかんだ。悔しさよりも、誇らしいと思う気持ちが湧いてくる。
だって、こんな凄い奴が私を好敵手と思ってくれているのだから。
嬉しさを噛み締めた時、ちょうど風見達が映るモニターとは別の画面に、ルカがシャッター前まで辿り着いた。
私は安堵すると、近くのマイクに向かって
『ルカ、アルカナの研究所と同じ要領で解除出来るぞ』
と、放送で助言したのだった。