交錯編-それにこれ、争った跡か?
場面が変わります。
ルカに日向から電話があった時のことです。
私は早々に目星を付けていた場所へと赴いていた。
「嘘ではなかったんだなぁ」
嘗て師匠と任務で訪れた鉱山。ドゥンケルシュタールを隠す為に、歴史では金の採掘場とされていたーーと、思っていた。
「しっかり金があったとはね」
そう、あの鉱山は本当に金鉱だった。そして精製を行なっていたのだ。
不自然に工事道具が置かれている採掘跡の様な場所を見つけ、周囲を見回す。予想通り、そこはまだ使われている様だった。
「今日は作業してないのか?人がいないけど…」
だが、作業途中の様に見える。休憩時間と言うより、急いで出ていった様な、放ったらかしにした感じがする。
「それにこれ、争った跡か?」
一部戦闘痕の様に地面がボコボコの箇所を見つけた。近寄ってみると、目を見開いた。思いもしなかった物を見つけたのだ。
「これって風見の指輪じゃ…」
砂埃に塗れたソレを拾う。そしてコレが此処にある意味を考えてーーえ?えぇ!?まさか風見、此処に来たの?そして、もしかして、捕まったぁ?
「嘘だぁ…」
と、現実を受け入れたくない私が呟く。しかし現実主義の私が叱咤した。
「風見の居場所を突き止める事。風見の安全確保が最優先」
違法採掘と不法投棄の始末はその後だ。
私は発見した精製場へと乗り込んだ。ちなみに此処に来る前に、ソルを引っ張って行こうとしたが、
「そんな危ない所に行くかっ!」
と頑固拒否され、
「なら、これはやって!」
と、私の右手にソルの痛い写真がある状態で、左手に握る物を押し付けた。
「一昨日、能力を使った時に私のそばにいた風見を覚えてるよな?」
「…あの銀髪のことか?」
ソルの問いに私は頷く。
「そいつが腰にコレと同じタガーを携えていたの、覚えてるか?」
と言って、風見愛用のタガーの写真を見せた。ソルは眉を顰める。
「タガーだと?そんなモン、気付いてねぇ…っ!!」
ソルの言葉を遮る様に、私はソルの頭をガシッと掴む。そして
「大丈夫、思い出させてやるよ」
と、言って詠唱した。
憎々しげに睨むソルに、私は弱味をひらひらとチラつかせて
「私が死んだら、ばら撒かれる様に細工しとくから。解除して欲しければーー分かってるな?」
そう言う私は、まるで悪代官の様だったと後にソルは語ったと言う。
と、言う前置きは程々にして。
3つある棟のうち、乗り込んだのはおそらく事務棟だ。この建物構造は見慣れている。
「なんか…水の国の事を思い出すなぁ」
あれはアルミの精製工場だった。あの時も、誘拐された人達を助ける為に侵入したんだっけ。
「今回は、その時の誘拐犯を助けに来てる訳だけど」
と、なんとなく可笑しくて苦笑する。そう言えば、一昨日もこんなデジャブ感があったなぁ。
そしてすぐに真顔に戻った。
「風見を助けると言っても、直接会って仕舞えば、この間の二の舞になる」
もうルカには頼れない。そう、だから
「私がやるべきは“風見自身の脱出の手伝い”」
風見が大人しく捕まっている筈がない。
そうだろう?好敵手。