交錯編-うわー、水攻めかよ
「ああっ!!くそっ!」
地面に足が着くのと同時に、シャッターが完全に閉まった。丁度窓がない、通路に閉じ込められる。
そして
「うわー、水攻めかよ」
日向の言葉通り、通路を塞ぐ両端のシャッターの隙間から、水が侵入してきたのだ。私は舌打ちする。
「あぁ、もう!ーー水よ!」
前後から侵入してくる水をなんとか止めようとする。しかし敵が流し込んでくる力の方が強いのか、侵入流量が少なくなっただけだった。
「ドゥンケルシュタールを投げてつけてきたのは、この為ね…っ!」
私の魔法が封じられれば御の字。完全に相殺出来なくとも、威力が弱まればいい。そんな狙いもあって、粗悪品でも大量に投下してきたのだ。
じわじわと足元に寄ってくる水。
「ちょっとキツイがーー風よ!」
と、日向も風圧をかけて、水を追い出そうとした。横目で見やると、手にリヒトシュタールを握っている。あれのお陰で、私の魔法を防いだのか。しかし、今の状況には焼け石に水。そして、
「ガスか…!!」
嫌な匂いに気付く。匂いの元は、どうやら天井にある小さい通気孔の様な所からだ。
私は鼻と口を急いで覆い、日向が急いで魔法を解除した。そして
「渦よ!」
ガスのみがグルグルと私たちの周囲を流れる。これで暫くは保つだろうーーしかし
「酸素濃度が下がる前に、どうにか脱出しないと!」
ミラさんの二の舞だ…と言う日向の言葉に、私は絶望に近い感情を抱く。
敵の狙いは、ガスか水のどちらかで殺す事。
ガスを追い出そうとすれば水が。水を押し返そうとすればガスが、この閉じられた空間を満たす。もし両方を防げたとしても、餓死するより先に低酸素症に陥りる、と言う寸法だ。
ーー待って、まだ私はあの子と…
不意に想った言葉に、私は驚愕する。あいつの事を『あの子』と呼んだ事なんてない筈なのに、一体何故?
唖然とする私を尻目に、日向は叫んだ。
「風見!しっかりしろっ」
しっかりしろって言ったってーーこの状況をどうすればいい?
私は全能者。四大元素を扱えるーーただし魔法が使えなければ価値がない。
私の力では対抗出来ない。私の頭脳では乗り越えられない。そう弱音が脳内を支配しようとした時、
ぽちゃん
と、音がした。なんとも場違いな音。だけど私は音がした足元を見る。そして
「私の指輪…!」
膝下まで上がっている水位。その水底に、見覚えのある指輪が沈んでいた。
それは魔力増幅物質で作られた指輪。
持っていたのを気付かなかった?服の何処かに引っかかっていた?ーーいや、まさか。
確証も確信もない。だけど心がそうだと叫んでいる。
一昨日から心を揺さぶる気持ちが、そうだと言っている。
私は指輪を拾い上げると叫んだ。
「ナギッ!!」