交錯編-風見、跳べっ!
注意すべき事は、ただ一つ。
「ドゥンケルシュタールを持ってこいっ!」
「けど、そんなに量が…」
そんな声ごと私は消し去る。
私の魔法を防ぐ為には、ドゥンケルシュタールが必要だ。しかし純度の低い物しかないのか、私の魔法を相殺しきれず、無惨に倒れていく。
遠距離から私にドゥンケルシュタールを投げつける馬鹿もいるが、ソイツがドゥンケルシュタールを手放した瞬間に、私の魔法が襲う。転がってきた鉱石が足元に来るのと同時に、暗殺者みたいな奴が飛びかかってきたが
「舐めないで」
手に入れた短剣で喉を裂いた。
溜息混じりに私は呟く。
「此処には銃器の類はないみたいね」
そう、注意するべきはドゥンケルシュタールなのではない。そんな物よりも、物理攻撃の方がよっぽど相性が悪いのだ。
「空気の流れが遅い…思った以上に威力が出ないわ」
屋外なら拳銃の弾くらいは防げる。しかし屋内の、それも換気されていない場所では風の威力が激減していた。
「外からの狙撃が一番怖いけど…その心配はなさそうね」
この建物自体が機密性が高いのか、なんと窓は嵌め殺しタイプの防弾ガラスが使用されていた。建物自体は古いが、機能的にはまだ問題がなさそうだ。これは幸い、と私は堂々と突き進む。
屋内ならば、防御より攻撃に徹した方がいい。遠距離から攻撃される前に距離を詰め、魔法の効果範囲に入れてしまうのだ。引き金が引かれるよりも先に、始末する自信がある。
「厄介なのは、待ち伏せされている場合よね…」
曲がり角で、角から出た瞬間に撃たれる。これは流石に怖い。
なので超音波探索器を真似して、振動を周囲に送る。待ち伏せしていると分かったら、先に風を送って先制攻撃した。ら、
「うわっ!あぶねっ!!」
と、聞き覚えのある声がして、私は急いで角から顔を出した。そこには
「日向、来ていたのね」
「来ていたのね、じゃねぇ!!助けに来たのに、殺される所だったんだぞ!?」
悪かったわね…と私は日向に渋々謝る。危うく、味方を殺すところだった…が、来てたかどうか知らないんだから、仕方なくない?少し文句を言おうと眉を吊り上げたが、
「お前の荷物も見つけておいてやったって言うのにっ!」
と、日向が私のタガーを渡してきたので、怒りを収めた。渡された装備を身に付ける中、日向は額を抑えながら言う。
「途中でルカと二手に分かれたんだが、俺で良かったな。あいつだったら防げなかったぞ」
「ルカも来てるの?それより、あんたもよく防げたわね」
疑問を言う私に「お前なぁ」と苦笑いを浮かべる日向。何よ?口喧嘩なら買うけど?と、挑発的な目を向けた。
しかし、
「なあ、誘導されてないか?」
「えっ?」
私は間の抜けた声を上げる。そして
「!!」
頭上から防火壁のようなシャッターが降りてくる。急いで抜けようとしたが、
「風見、跳べっ!」
既に腰よりも下まで閉じたシャッターを潜ろうとした時、日向が奥から此方に銃器を向ける敵を視認した。撃たれるっ!と、防火壁に隠れるように、私達はジャンプする。