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交錯編-アイ、ツ、ら…?

 しくじった、と思った。ナギに一泡食らわしたいと言う思いが先行して、注意を怠ってしまった。


私は目を覚ますと、椅子に座らされ腕を後ろで括られていた。腰にあった武器の類が一切ない。指輪も没収されたようだ。


「此処って何処よ…」


「教える訳ないだろう?」


「!!」


私の呟きに答えたのは、部屋に入ってきた男だった。私より7、8歳ほど年上のようだが、何処か育ちの良さが伺える。たった数歩だが、足捌きや姿勢からおそらく剣術の類を身につけている筈だ。最近、似たような人物を見た気がする…。どこでだったかしら?と考えていると、男はズカズカと近づいて来て、私の顎を掴んだ。上に引っ張られるように掴まれ、無理矢理顔を向けさせられる。

男は忌々しそうに呟いた。


「本当に…嫌なくらいにアイツらに似ているな」


「アイ、ツ、ら…?」


く、首が痛い…っと思いつつ、私は呟いた。

恨みを持ちつつ私に似ていると言うのなら、それは十中八九ナギの事だろう。しかしコイツはアイツ“ら”と複数形で言った。

つまり、もう一人いるのだ。それがアイなのか、シルフィードなのか…私は鼻で笑った。


「あんた、パンタシアの元貴族ね」


「…よく分かったな」


男は目を細めると「まぁ、当然か」と勝手に納得した。


「俺もパンタシア内ではそこそこの地位にいたからな。マークされて当然か」


「……」


私は表情を変えないように努めた。ただし内心では「カマ掛けただけなんだけど…」と唸る。


ナギとの共通点は、アイよりもシルフィードの方が強いだろう。そしてナギとシルフィードと言えば、パンタシアを潰しファータを復活させた張本人達だ。革命の際に、パンタシアで甘い蜜を吸っていた貴族共から恨みを買っていても不思議はない。


そして男を貴族と思ったのはーーー現在シルフィードの護衛を行なっているファーディナンドの事を思い出したからである。


騎士である彼と所作が似ていた。以上の事から男をパンタシアの元貴族と推測し、カマを掛けてみたのである。

推測が当たってラッキー、と言うより「この後なんて言おう…」と少しばかり申し訳なく思ってしまう。しかし私の心配を他所に、男は独白の如く話し始めた。


「全て順調に行っていたのをっ!めちゃくちゃにしたアイツらを、私は許さない。許してたまるか。嫌々ながら従っていた統治者の下で働いていたと言うだけで!しかも役立たずのファーディナンドは叙勲だと!?アントーニオに上手く取り入れられなかったからレジスタンスに加担しただけの奴にっ!」


「……」


「こっちは給仕を買収し、年月を掛けて毒を盛って機が熟すのを待っていた所を!エアリエルの奴が横取りしやがってっ」


「……」


男の言葉に、私は合点した。アントーニオ達の色覚異常について、前々から違和感があったのだ。確かに年齢や生活習慣によって色覚異常になる事はあるが、赤と黒を間違えるくらい重度になるだろうか?と疑っていたのである。

どんな毒を盛っていたのかは知らないが、色覚異常の発症、重症化に貢献していたのは確かだろう。


ナギに上手く利用されたと言う事か…と思ったが、もしかしたらナギが裏で糸を引いて、コイツに毒を盛らせていたかもしれないとも思ってしまう。

何も言わない私に男は不満を抱いたのか、眉を顰め更に手に力を込めた。


「その拘束具にはドゥンケルシュタールが埋め込まれている。大人しくしていろ」


「……」


私は無言で睨むと、そっと口を動かした。男は聞き返すように「なんだ?」と顔を近づける。そして


「っ!」


私は頭突きを喰らわせた。男は呻き、額を抑える。そして


「クソがっ!」


と、私の頬を勢い良く叩いた。口の中に血の味が広がる。口内を切ったか。歯が抜ける程の強さではなくて良かった…。


「巫山戯たマネしやがって!!」


頭に血が上った男は、続けて私を殴ろうとした。

その瞬間を、私は待っていた。

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