交錯編-幹部の誰からだ?
俺はベッドの中で自己嫌悪に陥っていた。
時計を見れば、とうに起床予定時刻を過ぎている。それでもやる気が出ず、仰向けから横向きに体勢を変えた。
「ナギ…」
目を瞑れば、一昨日の夜を思い出す。あの幸せな時間を。そして悔いる自分を。
風見達にも散々言われたが、改めて愚かな事をした。
あの時の誘惑に乗っていなければ、今頃ナギはこの場にいたかもしれないのに。少なくとも、今何処で何をしているのか、把握出来ただろうに。
とその時、着信音が鳴る。俺は飛びつく様に画面を確認すると、相手は残念ながら日向だった。
俺は落胆しつつ電話に出る。と、意外にも日向の焦った声が聞こえてきた。
「ルカ、今何処にいる!?」
「…まだ部屋だが」
「風見が捕まった!!」
「…はぁ?」
俺は間抜けな声を出す。日向は相変わらず焦った声で、早口で説明じゃない説明した。
「風見が先走って、大地の連中に捕まったんだっ!」
位置情報を送るから、取り敢えず来てくれ。と一方的に日向は言うと、電話が切れた。
俺は呆気に囚われ、
「大地の国だと…?」
と呟くと、飛び起きたのだった。
日向と合流した俺は、頭を抱えていた。
なんと風見はナギの居場所と言う情報を入手し、一人で乗り込んだ先で捕まったらしい。捕まる直前に日向に連絡して、その後行方不明だと言う。
電話で言っていた「先走って」の意味が分かり、俺は何とも言えない気持ちになる。
「記憶を取り戻したわけではないんだな?」
「あぁ…けど先走るくらいには、ナギを意識していたのは確かだ」
日向は申し訳無さそうな表情で言う。
「自覚はしてないが、ナギに対して意識している態度は何度か見たからな…。特に一昨日の事で拍車が掛かったらしい」
「一昨日って言うのは…」
「お前には会いに行って、俺達からは逃げた事だよ」
「……」
実際にはハニートラップをされただけなのだが、改めて思い興すと確かに"俺にだけ"と言う特別感がある。記憶が戻っていなくとも、風見としては"自分も"特別扱いして欲しかったと言う事か。
俺はニヤケそうになったので、急いでわざとらしく咳払いをすると、話を戻した。
「それで…その情報元はどこなんだ?」
俺の問いに、日向は一瞬だけ言い淀んだ。
「…幹部会からだ。大地の国との国境付近で目撃情報があったんだよ」
「幹部会からだと!?」
情報提供場所の名前に、俺は僅かに目を見開いた。アルカナ幹部会。俺たちの中では、ナギと日向しか参加した事がない会議だ。
二人の話から聞いた話では、開かれるのは不定期で、参加者も毎回マチマチだと言う。一度も会ったことのない幹部もいるらしい。
「幹部の誰からだ?」
「吊るし人…本名も顔も、俺は知らない。おそらくナギも知らないだろう」
「幹部同士が会った事がないってありなのかよ…」
そう言われても…と日向は苦い顔をする。
「古参連中は殆ど名前だけ在籍してるようなもんだしな…。一応、全員を把握しているのは鵠沼総帥だけだろう」
「ちなみに、その吊るし人って奴はアルカナ派か?それとも中立派か?」
俺の問いに、日向は「分からない」と残念そうに首を振った。
「おそらく中立派だと思う…。中立派は"どちらにも与していない"ってだけで、明確な線引きがないしな」
それに…と日向は一度言葉を切った。
「今はアルカナ派もミネルバ派も関係無くなったんだ。今更ナギや風見を邪魔だと思う奴はいないと思うぞ」
そうだよな…と日向の言葉に俺も同意する。
俺は溜息を吐いた。
「吊るし人の狙いは一先ず置いて、まずは風見を救出するのが先決か」