交錯編-おい、終わったか?
この面子で集まるのは、何年振りだろうか。
鵠沼は円卓に座るメンバーを見回した。
滅多に集まらないーーーどころか、実際に会うのは今日で二回目、と言う者もいる。
出されたレモンバームの紅茶に、死神は顔を歪めた。
「ただの紅茶だ、死神」
と、険しい顔をする死神に、塔は底意地の悪そうな表情で言う。死神は「分かっている」と睨み、
「普段の幹部会に参加していない者だけが集まるとは、ある意味奇特だな」
鼻で笑った。そして塔に向けてお返しと言わんばかりに、嘲笑を浮かべる。
「報告が上がっているぞ、塔。世界に悪巧みを看破されたどころか、利用されたようだな」
死神の言葉に、塔はバツの悪そうな表情を浮かべた。
「まさか世界が全部話すとはな…懐は痛いがーーー」
「良い傾向ではあるな」
と、今まで無言だった吊るし人が塔の言葉を遮った。塔は首を竦める。
「私たちはそう思うが…お前は本当にいいのか?」
塔の質問に、その場の全員が息を呑んだ。吊るし人は塔を見つめ返すと
「覚悟はすでに出来ている」
紅茶を一口飲み、揺るぎない意思を持って応えたのだった。
私は頭を抱えていた。
ルカから奪っごほんっ…貰った研究レポートを見て、やるべき事を列挙していく。
「アルカナめ…っ!面倒事を押し付けやがって」
そう呟きつつ、私は地道に廃棄されたコンテナの中身を判別していく。そして
「これかっ!!現在、目下、問題を発しているものは!!」
と、目的物に到達した。その量にゲンナリする。と、そこで違和感を覚えた。あれ?記載されてる量より多くないか…?
そして私は、コンテナ近くに落ちていた黒い石ころに気が付いた。拾い上げた石に次いで、リストの物質名に視線を走らせる。
「これって…」
本来ならアルカナに丸投げしてもいい、この案件。村長に言われて調査した結果、アルカナに連絡しようとした矢先、私は村長に止められた。
『これ以上、部外者を入れる事を許さない』と。
えぇ、当然、悪態を吐きましたよ。アルカナの不始末なんだから。奴らに頼めば早くて安くて、なにより楽に済むのに!
『胸襟を開くというのなら』
と、鵠沼は言ってきた。私も殊これに関しては、是非ともアルカナを巻き込んでやりたいと思う。しかし村長がそれを許さないのだ。
このまま外部から人を入れなければ、過疎化は進んでいく一方なのに…と思ったが、まぁそれは私には関係ない。ただーーー
「おい、終わったか?」
と、内線からソルの声が飛んできた。私はハッと我に返り、返事をする。
「あぁ、特定したーーー回収してくれ」
そう言うと、パッと景色が変わった。見覚えのある小屋の中だ。
「戻ってきたか?」
と、外からソルの声が聞こえる。私は返事を返しながら防護服を脱いだ。
着替え終わって小屋から出てきた私に、ソルは「どうだった?」とせっかちに聞いてくるので、私は「最悪」と首を竦めた。
「取り敢えず、地下水は飲まないよう住民に注意喚起しろ。コンテナの中身が漏れ出てるのは確認したが、どれくらい流れ出たのかは分からなかった」
「村人全員の検査もした方がいいよな…?」
「昔ながら地下水を汲んで飲んでる奴らは当然、住んでる連中も。漏れなく全員だ」
私の言葉に、ソルはゲンナリとした表情を浮かべた。
「自力で外と行き来出来ない奴は、当然俺が連れて行くって事だよなぁ」
一体、何人いるんだ…と項垂れる。
そんなソルを尻目に、私は独り言のように呟いた。
「もしかして、まだ稼働してる…?」