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◇深淵を覗く覚悟◇
水晶玉を覗く様に、アテナは不思議な空間でナギの様子を眺めていた。
「深淵を覗く覚悟を、貴女はちゃんと出来ているかしら?」
アテナは艶笑を浮かべる。
「鵠沼に言った言葉を、今回貴女は痛感するでしょうね」
そう呟くと、見ていた画面が変わった。
それは数年前の、まだ鵠沼が総帥になる前の様子。
険しい顔をするナギと鵠沼が映っている。
ナギは強い意志を宿した眼差しで宣言したのだった。
『私にとって"総帥"とは、情報が最も早く多く集まる場所であり、望みを叶えるのに最も遠い場所だ』
そう、その言葉は正しい。
「貴女が思っていたよりも、遥かにね」
アテナは微笑を浮かべる。
「深淵の底を捉えたと思ったら、大間違いよ」
貴女が見ているのは、深奥でありーーー神奥なのだから。