☆私は、知らなければならない
入浴シーンあり笑
街中を探し回るが結局、盗人は見つからなかった。
私たちは一旦捜索をやめ、かいた汗を流す事にした。ちなみに、この時、実は同じ宿を取っていた事が発覚する。
「警察に届け出ないのか?」
「色々と事情があってね」
仕事をサボって温泉に来てますとか、万が一、職場にバレると面倒臭い。それに取られた物はそこまで重要な物ではない。
貴女もいいのか?と尋ねると、もう一人の私ーーアイは複雑そうな表情をして「あぁ」と応えた。宿は前払いだから問題はないようだ。
お互いに一糸纏わぬ姿で、露天風呂へと向かう。
私はアイの身体を上から下まで見回した。
うむ、無駄な肉が一切ない。背丈も一緒だ。
「……無遠慮すぎないか?」
「悪い……」
私の視線に、アイが咎めた。女同士だからと言って、流石に私も悪いと思い反省する。
アイはアイで、チラリと私の胸辺りを見ると、すぐに目を逸らしたーーあぁ、これ?
湯舟に浸かりながら、アイは私に尋ねる。
「なぁ、君は栄光の世界の人物か?」
「あぁ、そうだよ」
栄光の世界とは、火炎の国や大地の国がある私が生まれた世界の名前だ。ちなみに、名前の由来はない。
「貴女はこの世界ーー繁栄の世界の生まれだよな?」
あぁ、とアイは頷いた。そしてアイの視線が、私の髪へと向かう。やっぱり気になるよな?
私もアイの頭に視線を動かした。
二人とも、お湯に髪が浸からぬよう、お団子にして纏めている。
口火を切ったのは、アイだった。
「…異世界に自分と姿が同じ存在はいるが、確か髪色はみんな違うんじゃなかったか?」
「私もそう習ったんだけどなぁ」
現に私と風見、日向とルカは、顔や背丈はそっくりだが、髪色や瞳の色は全く異なる。
私はうーん、とわざとらしく考えた。
「発展の世界の奴は、白銀の髪にグレーの目だしな」
「発展の世界…」
意味深に呟くアイ。私は「どうした?」と聞くと、チラリと警戒するような眼差しを向けてきた。え、何かマズい事言った?
「発展の世界の存在と、関わりがあるのか?」
「まあな。なにせ私は、火炎の国軍に所属しているし」
私の言葉に、アイは僅かに目を見開く。そして「だからそんな所に傷が…」と私の胸を見て頷くと、恐る恐ると言う感じで尋ねてきた。
「火炎の国軍という事は、アルカナの事はよく知っているのか…?」
「そりゃ敵対している相手だし」
そう答えると、アイは意を決して尋ねた。
「なぁ、アルカナの何がいけないんだ?」
その質問に、的確に答えられる軍人は上層部のみだろう。
私はニッコリと笑った。
さて、アイはどこまで理解出来るだろうか。
話が長くなりそうなので、取り敢えず私たちは温泉から出てきた。自販機の前で、飲み物を選びながら私は話す。フルーツ・オーレにするか、いや、やはりここは定番のコーヒー牛乳か、地味に悩む。
「アルカナは非人道的な組織で、人工魔法使いまたは能力者を作っている犯罪組織だ」
私は腰に手を当てて、コーヒー牛乳を一気飲みする。うむ、美味い。やはり定番にして正解だ。
アイはミネラルウォーターを一口飲む。
「つまり非人道的ではなく、合法的に魔法使い達を作るのならば問題はないのか」
「まさか、あり得ない」
あり得ないのだ。非人道的な事をしないと言う事が。アイの表情が、険しくなる。
「人工魔法使いを作る事が、非人道的なのか?」
私は「それを聞いちゃう?」と困った表情をした。
辺りを見回し、誰もいない事を確認する。そして
「これ以上踏み込んだら、戻れなくなるぞ?」
「!!」
アイの前で、初めて能力を使う。アイはジッとこちらを見つめ、そして頷いた。
どうやら興味本位ではないらしい。
「私は、知らなければならない」
利用されない為に。
そう言うアイに、私は少しだけ、本当に少しだけ悪いと思ってしまったのだった。