交錯編-私は傍観に徹するぞ
二人の目が怖い。疾風の国にある支部に戻った俺は、床に正座していた。
「お前、馬鹿だろう」
と、底冷えた風見の言葉に、俺は背筋が凍った。恐る恐る顔を上げると、冷めた眼差しを向けてくる風見と呆れ顔の日向が俺を見下ろしていた。
日向は溜息を吐く。
「簡単にハニートラップに引っ掛かってんじゃねーよ」
「まて、ナギにだけだっ!」
「言い訳になってないわよ」
バッサリと切り捨てられる。後悔先に立たずとはこの事か…。
「あいつの目的は聞き出せたのか?」
と言う問いには、首を横に、
「追跡器はどうしたの?」
と言う問いにも、俺は無言で首を横に振った。
呆れと言うより最早失望したのか、二人はそれ以上の言及はなく、風見は溜息を吐きながら日向に向き直る。
「こいつを庇う訳じゃないけど、取り敢えずナギの目的は賞金だったって事は確定したわね」
「あぁ、あとは過去の研究データと莫大な金。この二つの関連性を探せばいい」
日向の言葉に、
「単純に考えれば、その実験の再現をしようとしているんじゃないの?一から設備を整えるなら、莫大な金額が必要なはず。賞金が狙いだった事にも辻褄が合うでしょう?」
と風見が見解を述べる。しかし
「何か引っ掛かるんだよなぁ」
と、日向は納得しなかったのだった。
三人からの報告書に目を通し終えた鵠沼は、微笑を浮かべる。
「ルカはアルカナに入って年数が浅いと言う事もあるが」
と、ルカの書いた書類から風見の物に視線を移し
「日向が幹部になれて、風見達が未だになれていないのはこの差だな」
と呟いた。
「ルカは確かに賢い。勿論、風見も。だけどナギの様に“圧倒的な”知識量があるわけでもなければ…」
チラッと日向の作成した書類を見る。
「日向の様に直感的に“本質を見抜く“事も出来ない」
本質を見抜く力。これはナギでさえ習得が困難だった。
鵠沼は笑う。
「私は傍観に徹するぞ」
総帥の席に着くと決意したあの日から、私は待ち続ける。
あまり使わないが、幹部になる際に大アルカナの称号が与えられている。それは日向の様に師から引き継ぐ場合もあれば、性格や能力に因んだ物を与えられる事もある。
そして私は与えられた称号を以って、この席に着いた。
そう、死神と言う称号を。
「大アルカナ死神は、決して悪い意味ではない」
破壊と創造。集結と始点。そして分岐点。
歴代の“総帥”の中で、自分が担う責は法皇ではなく、ましてや皇帝でもない。
「私はアルカナの長い歴史の分岐点を担う」
お前も同じだろう?と言うように、私はソファーに座る訪問者を見返した。
訪問者は「あぁ」と頷く。
「私が隠者を継承しなかったように、な」
吊るされ人はそう呟いた。
次回は小噺です。
大アルカナの意味は複数あるうちの一つをルビに使用しております。
他の意味もあります。ご了承下さい。