交錯編-今回だけだぞ
「優勝おめでとう、ルカ」
相手が誰か、しっかり認識するのと同時に、俺は飛び掛かる様に抱き締めた。
色んな感情が沸き起こる。怒りと嬉しさが入り混じり、吐き出す様に名前を呼んだ。
「ナギ…っ」
その名前を声に出した瞬間、俺の中で怒りや嬉しさよりも、愛おしさが沸き起こる。腕の中にいる。もう離さないと言わんばかりに、追跡器の事などすっかり忘れ、力一杯に抱きしめた。
「ルカ…苦しい…」
ナギが腕の中で俺を押すので、少しだけ腕を緩めた。
ナギの顔をしっかりと見る。
ナギは心配するような目で俺を見上げていた。
「ルカ…ちゃんと寝てる?」
「何処かの誰かのせいで、全然寝れてない」
俺の言葉にナギが「うっ」と困った顔をすると、そっと俺の頬に手を伸ばした。
「体は資本だ。しっかり睡眠は取れ」
「ならーーー」
と、俺はもう一度腕に力を込める。一度言葉を切り、ナギの耳元に口を寄せて囁いた。
「一緒に寝てくれるか…?」
「ーーーっ!」
ナギは顔を真っ赤にして、頬に触れていた手を引っ込めようとした。その手を俺に掴まれる。
「もう何処にも行くな」
俺は懇願する。
「お願いだ、帰ってきてくれ」
「…っ」
ナギの目が揺らぐ。その様子に、俺は微かな希望を抱いた。
俺がナギの事を想っているのと同じくらい、ナギも俺の事を想ってる。そう自惚れたっていいだろう?
掴んだ手を離し、ゆっくりと手をナギの後頭部へと動かした。もう片方の手で腰を引き寄せる。後ろからナギの顔を半ば強制的に俺に向けると、ナギは抵抗せず潤んだ眼差しで俺を見た。
「愛してる、ナギ」
だから戻ってきてくれ。
切実な気持ちを孕んだ俺の言葉に、ナギは意を決した様にギュッと拳を握る。
ナギが俺の耳元に口を寄せた。そして
「風見に追跡器を付けられた」
「!!」
思いもしなかった言葉に、俺は緊張した。風見の奴、ナギに取り付けられたのか。ホッとしたのと同時に、
「お願い、外して」
とナギが懇願する様な声を出した。俺の背中に腕を回して服をぎゅっと掴み、顔を擦り寄せる。俺はナギの望みを叶えてあげたいと言う想いと、そんな馬鹿な事をする筈がないだろ、と言う矛盾した気持ち陥る。
ナギは潤んだ瞳で
「ルカ…」
と俺の耳元に唇を寄せる。そして
「ーーー?」
「!!」
提案された内容に俺は目を見開き、逡巡する。ナギを見れば、先程までの弱々しさは何処へやら、意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「三大欲求と言うが、私たちにはもう一つ抗えない欲求がある」
「そうだろう?」と問い掛けるその眼差し。
受け入れ難い、だけど頷きたいそんな誘惑。断らなくては、と理性が訴える。だが、欲望が頷きたいと喚く。
今後の事を考えろ。風見や日向、鵠沼達に何と言われるか。理屈で欲望を押さえつけようとした時
「ルカ…チャンスは一回だけだ」
とナギは宣言した。俺は悪態を吐く。そして
「〜〜っ!!今回だけだぞっ!!」
苦渋の選択と言わんばかりに悩む俺に、ナギは満面の笑みを浮かべ
「ルカ、ありがとう」
と抱きついてきた。
その笑みが憎たらしくて、俺は一層強く抱き締めると唇を奪う様に重ねたのだった。
ただイチャイチャしてるだけの回だったので、明日も更新します。次回は解説回です。